もうひとりの主人公編 弐

第拾伍話【探索1回目】
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『(あ、今日は焦げがないですね。苦かったので、よかった...)』







二人でてれびを見ながらの朝餉
耳に聞こえるのは、彼女の声ではなく...

ただひたすらに黙々と食べる朝餉
こんなもの 前の村となんら変わらない気がする
ただ、変わったのは目の前にヒトがいるだけ。


そっと箸を置き、食べ終わった食器を重ね
彼女が食べ終わるのを待つ
彼女は、だいぶ食べる早さが遅い

だからいつも待ってしまう
暇です。非常に暇です






『(今日は一人ですから...何をしましょうか。読み書きに読み物に後は調べたいことが沢山ありますね、)』

「ん、あっごめんね?いつも待ってもらっちゃって」


『いえ...お気になさらず』






どうやら彼女も食べ終えた模様。
こんなにゆったりしてても大丈夫なのでしょうか?
遅れないのでしょうか?

彼女が手を合わせる
そして私もそれに合わせ、手を合わせた
これは彼女の日課のようだ
きっと一人の時もこんなことをされていたのでしょうね





「『ごちそうさまでした!!』」






彼女は私が使用した食器と彼女自身が使った食器を水場へと運んでいった

あ、何かお手伝いせねば!!

彼女が綺麗に洗った食器を、一枚ずつ丁寧に拭いていく
...ふと思ったのですが、吉良さんは、今日いつ頃お戻りになるのでしょうか?






『...今日は何時頃帰ってこられるのですか?』

「んーそうだなあ。残業っていうのがなかったら、6時......あの丸いとけいで言うと、6の数字のところで終わる予定だよ」


『(とけい?どれを言っておられるのでしょうか?ろく?)』





モヤモヤと疑問を抱いていると、いつの間にか隣にいたはずの吉良さんがいない...

あれ?いつの間に??何処へ行かれたのでしょうか?






「...あ、これねー」

『(なるほど、あれがとけい...そして6の数字...今黒い棒が指しているのが、今の刻でしょうね)ふむ...ということは、だいぶ先なんですね』

「そうね。まあ、いつもそんなものよー」

『(いつも?...ということは、これからもあの時刻にしか戻られないと、)そうですか...』






果てしなく遠く感じる刻
何刻待たなければいけないのでしょうか...

ですが仕方ないですよね。仕事というものは大切ですから
働かねば、何も頂けないのですから


...ふう






「そ、そんなに落ち込むことないよっ!!ちゃんと此処に帰ってくるし、5日間行ったら又お休みだから。ね?」

『(休み?...)本当ですか?』

「うん!!」

『(途方もなく感じてしまう...)』







浅く小さく溜息を付き、彼女を見上げれば、
彼女は何か思いついたような顔をする

...また何か思いついたのでしょうかね。







「じゃあ、約束しようよ!!!」

『(約束?)何をするのですか?』

「私が此処にちゃんと帰って来れるようにする約束!!」


『ちゃんと帰ってこれるように、する約束...?』





どういうことでしょうか?
ここは貴方の家屋ですよ?
貴方が帰ってこないのは流石におかしいですよ

...あァ、もしや慕う方でもおられるのでしょうかね?
...私には関係御座いませんがね






「そう!!指きりしようよ!!」

『(そんなことして、何になるのでしょうかね)また、ですか?』

「...ダメかなー?」

『いいですけど...約束というのは、人を縛るという意味でもありますよ?..この場合、私は外に出ませんので一方的にな縛りになりますが』

「いいよー。それに、丁くんを寂しがらせたくないし!!」


『(...はい?)...私は別に、寂しくなんてありませんが、』






勘違いも甚だしいですね

私が!!いつ!!どこで!!誰に向かいっ寂しいなどと申しましたか!!?

...寂しくなどありません
寂しくなど。







「ありゃ、今日は丁君は何時になく素直じゃないなーお姉さんちょっとショック」


『......』






彼女が思い切り肩を落とし、俯けている
...素直ではないのはいつもだと思うのですが...

それに、素直でありたいとも思いません。
ですが好奇心には負けますがね







『...そろそろ身支度を整えなくても宜しいのですか?』

「あ゛!!もうこんな時間じゃんっ歩いて近いとは言え、さすがにまずい...」


『(馬鹿ですね...私に感けるからいけないのですよ)』






彼女は弾かれたように、大慌てで身支度を整えていく
あれはなんでしょうか?
あの顔に塗っているものは...村で言う顔書きみたいなものでしょうか?
巫女様のお顔によく書かれていましたね

すると、彼女の背後に立っていると
くるりと上半身だけを捻らせ、白い顔で見てくる







『(あ、いつもの綺麗な吉良さんになりました)』

「あっ丁くん!!一応機械に説明の文、書いといたから!!ご飯食べる時に見てね!?」

『あっはい分かりました』







じっと女子が綺麗になっていく様を観察する
女子というものは、このように変わっていくのですね
私にしてみれば、何故顔に何かを施したり
無駄に何度も鏡を見たりとするのか不思議で堪りません






「えーっとどこ置いたっけ?あー!!あれもないじゃん!!」






...何故前もって今日の準備くらいしなかったのでしょうか。
女子がはしたないですよ!!

全く、彼女は何か欠けている気がしますよ








「じゃあ行ってくるね!!」

『はい。必ずや帰ってきてくださいね?』

「大丈夫だよ!...ちゃんとおうちに帰ってくるからね」







彼女はふわりと笑われると、体を引き寄せ強く抱きしめてきた
あの...素足でその仕切りのところを超えたくはないのですが、

わわっ...頭をぽふぽふしないでください!!
髪が...もう乱れてましたね。意味なかったですね






「じゃあ行ってきます!!」

『......(頑張ってきてください)』






ひらひらと手を振る
それは彼女の顔が見えなくなるまで続いた

パタンと戸が閉まるのを確認する
遠くから、彼女が走っていく足音が聞こえる

...忙しない方ですね







『...さて、』






これからは私一人の時間ですね
何をしようか...

初日は何も出来ませんでしたからね
一応やることはいろいろあります
きかいとやらの取り扱い方

この家の探索
そして読み物 読み書き

時間はたっぷりあります。
彼女が戻られる前に、少しでも勉強をしておきましょう
彼女との会話が少しでも成立するように
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