もうひとりの主人公編 弐

第拾陸話【不思議な感情と。】
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『...え』





誰、でしょうか?

彼女の存在は確認できた
では隣の人影は?

見るからに吉良さんよりも大柄な人影。
男の方?

一体なんなのでしょうか?
彼女の何でしょうか...?





「――――くーん!!―――――ま!!」

『......』







中で何かが蠢き出す
気持ち悪くて 苦しくて 吐き気がする。

見ているだけ、彼女ともう一人が楽しそうにしている所を見ているだけなのに

見たくない。...見たくなど、ない


居たたまれず土台から降りると、リビングにあるソファへと直行する







『...あの方は、何方だったのでしょうかね』





ぼんやりと自分の真正面にある真っ黒なてれびを見つめる
そこには足を揺らし、目に光が入っていない己が映り込んでいた
何も見ていない、何も考えていない 何も、何も―――――――――

...あの方は 吉良さんにとってのどのような 存在なのでしょうかね






『(...おかしいですよね。彼女に慕う方の一人や二人、居ても可笑しく等ないのに)』





先ほどの光景をほんの少しでも思い出すと、腹の奥底からまた何かが迫上がってくる
気持ちが悪い 嫌だ 止めてください 触れないで下さい 離れてください 

...彼女から、離れてください






「丁くん?いないのー?」

『(あ......)』






不意に彼女の声が部屋に響く
どうやら放けていた間に、彼女が帰ってきたようだ

...でも、どうすればいい?今は彼女の顔など見たくは、ない。

どさりと荷を下ろす音がする
どうやら此方へ近付いている模様







「もー居るならお帰りの一言くらい言ってよー!!」

『......おかえり、なさい』

「...なんでこっち見ないのかな?」


『(見ないのではなく、見れないんです...)』







彼女の顔が見れない 
未だに放けたまま、てれびを見つめていると、目の前に彼女の避けていた顔が映り込む

...何故私の目の前に立つんですか?
お止めください。今は、そっとしておいてください






「昨日も言ったと思うけど、言葉で伝えてくれなきゃ人には伝わらないよ?」

『(そんなこと、私自身がよく存じております...)』





ギシリとひっそり歯を食いしばる
彼女にバレぬよう、顔を俯けさせて。

...こんな顔、ヒトには見せられません。でも、抑えきれない苛立ちもまた同様







『...何でも、ありません。お気になさらず』

「ダメ。言わないと許さないから」



ギシリ...こみ上げる 込み上げる苛立ち



『許さないとは具体的にどう許さないのですか?』

「今はそんなこといいの。話はぐらかさないで」







私は何故こんなにも苛立つのですか?
不思議でなりません。
今迄こんな感情を味わったことがないんです
解らないです。何方か教えてください

何故?何故?
...彼女が別のお方と、楽しそうに話されていただけなのに何故?







『正直な話、私にも分かりません』

「...え?」

『私にも解らないのです。何故自分がこんなんに苛立ってるのか不思議なんです。昨日の..あの時の感覚と少し似てます』


「昨日?」






昨日――――――。
彼女の口から不意に出た、"甥っ子"と言う単語
お会いした事も、見たことも、お声を聞いたこともない方







『はい。吉良さんが甥っ子さんの話を少しだけされた時のことです』

「甥っ子...あーあの時か。買い物に行った時のことだね。その時の感情に似てるの?」


『...はい。なんなの、でしょうか』






彼女ならば、物知りで画期的な国にお住みのこの方ならば何か――――――――

...とは言いつつも、これは私の問題ですから他人様が解るはずが御座いませんよね

俯けていた顔を上げ、彼女を見つめると
何やら思いついたようなお顔をしていた







「じゃあこうしよう!!私が質問するから<はい>か<いいえ>で答えてね?」

『(一体何をするのでしょうか。突然に)え?は、はい』

「じゃあ第一問目!!」







どこから鳴ったのか不思議な「じゃじゃん!!」という音が響く
流石に突然のことで体を跳ね上げた丁は、辺りを勢いよく見回す

が、タネも仕掛けもない。...一体今のは?







「もし、私がこの家に男性をあげたら拗ねる?」

『(えっと...あげるということは、招き入れるということですよね?拗ね..ますよね誰とて)はい』


「次、第二問目!!丁くんと私と私と同じ年くらいの人が仲良く歩いています。男性が丁君と仲良くしたそうな目で見て、手を繋ぐよう言ってきます。怒る?」

『(当然でしょう)はい。付け加えるなら、手を叩いて吉良のみ連れて何処かへ行きます。正直その方邪魔です』







...先から可笑しな問いばかりしてくる彼女。
この問いをして、一体何が導き出されるのでしょうか?
私にはさっぱりと見当がつきません。







「じゃあ最後の質問ね。私のこと、どれくらい好きー?」

『(え?...え?これは何の関連性があるのでしょうか?)どれ、くらい...』


「身体で表現してもいいよ?」






しばしの沈思。
どれほど慕っているか...え?

いやいや、彼女に何も抱いてなどおりませんよ?
あるとするならば御恩と感謝とそれから...
自身で表すとするならば、彼女の存在くらい?
嫌、意味が判りかねますよね。でも表現のしようが...






『じゃあ、これ...くらい?でしょうか』

「わわっびっくりしたー」

『身体で表してもいいのでしたら、これくらいです』


「...計りようがないね。じゃあ言葉で言えばどのくらい?」







ぎゅっと強く抱きつけば、彼女が少しだけ仰け反る
彼女は、一応私の家族。っと吉良さん自身が豪語されておりましたので、母君としてはとても好意的ですよね

...慕っていることに、なりますよね?
確かじしょに乗っていた言の葉で、相手に対し好意的な言の葉を表す単語がございましたね。

ですが恥ずかしいですね。
ヒトに好意的なことを言うことは





『...好きに、大が二つ程つくくらいです』






"好き"と言う単語を言ったのみ。だのに少しだけ体内の熱が上がる
恥ずかしさに耐え切れず、思わず抱きついていた手を離し服を目一杯握り締め 彼女の腹に顔を埋める

...あァ、こうなってしまうと気になってくる。あの方の―――――もう一つの影の存在が








『...あの人は何方だったのですか?凄く、気になります』

「あの人はね、仕事での仲間で部下っていうものなんだよ。下っ端とでも思ってくれてたらいいかな?」


『下...』





村の中の差と一緒なのでしょうかね。
やはりどこの国でも、差のようなものは存在するものなのですね

...私が孤児だからと、村の奴らが蔑むような感じと一緒で。

では、私はあの方と同じ?
もしくはあの方よりも下?

ズキリと何処かが痛んだ。
身体に何かを与えられたわけではない

それは中の痛みだった。
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