もう一人の人生編 参

□第拾柒話【その方の名は、"鬼さん"】
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すう...――――――――




"――――――きなさい。"





何方...ですか。もう少し、も少しだけ
この暖かい、ぬくもりの中で...

って吉良、さん?



気づけば、彼女の温もりがない。
それどころか、辺りは真っ白




"やっと気づかれましたね。"





あ、貴方は何時ぞやの...
先日は有難うございました。





"それは宜しいので、早く此方へ来なさい。時間は限り有るものですよ"





あ、はい...
申し訳ございません

声がする方を見つめれば、何時ぞやの長身の男が同じ椅子 同じ場所で座っていた

そしてその隣には、先日私が座っていた椅子がある





"...それで、上手くいかれましたか?"






上手く?...良く分かりません。
それどころか、新しい悩みさえも増えてしまいました




"ほお?新しい悩みとは?"





...その、今日の出来事なのですが
彼女が別のお方と楽しそうにお話されているところを、見てしまいまして。

今日のあの中の苦しみを、男の方に打ち明ける
苦しかったこと 吐き気を催したこと 気持ちが悪くなったこと







"ふむ...なるほど、"





これ、は一体なんだと思われますか?
私には、全く解り兼ねます
今迄生きてきた中で、このような体験は初めてでして...
分かるのでしたら、是非お教えお願い致します。






"...話は変わりますが、貴方はヒトに愛されたい 愛したい と思ったことはお有りで?"






他人に...?
それは親からの愛情云々を言う意味合いでしょうか?
それならば、無いと言えば嘘になりますが
無くても...いいかな、と
愛したいとは、思ったことも考えた事もございません
貴方様は?







"あ、私のことは、鬼とでも仰ってください。私は、―――――貴方の歳程までは、無かったですね"





あ、はい分かりました。
では鬼さんは何時からそういったことを考え出されたのですか?

そう言うと、鬼さんは目を瞑り上を仰ぐ






"...さあ、何時だったでしょうかね。もう遠い遠い昔のお話ですので、曖昧でしか覚えておりませんよ"





曖昧でも構いません。
是非お聞かせください。
ご参考にしたいのです!!

身を乗り出し、鬼さんに問い詰めれば彼は少し困り気味で宥めてくる

これが落ち着いてなどおられませんよ!!
なんせ、この答えが見つかるやもしれませんから!!






"あれは―――――最初の時は、神代...大体推定14、15の歳程でしたかね?"





思春期というものですね
よく言うことを聞いてくれ、助かると村の奴らが言っておりました






"えぇ...ですが、私の場合は違いました。尖っていたと言えば宜しいでしょうかね"





尖っていた?
何が尖っておいでだったのですか?
爪?その頭のものですか?それともなんでしょうか?





"性格が、です。腹が立つことを言われれば、誰彼構わず敵対心を抱き締め上げておりましたね"


締め...首を、ですか?
鬼さんがふんっと鼻を鳴らし、腕を組む



"えぇ、それはもう...自分で思っても手がつけられないほどでしたね。情けない話"




穏やかそうな鬼さんに、そのような時期が...
さぞ周りは大変でしたでしょうに。



"そうですね。烏頭さんや蓬さんにもご迷惑をお掛け致しましたね。あの方が来るまでは"



あの、方?
とは鬼さんが愛した?愛された?お方ですか?



"そうです。以前にもお会いしていたのですが、とある事情でお会いできなくなりそれきりでした"




感動のご再開...?



"まあ、感動ではありますね。はい。それから彼女を愛すことになりました、色々省いて言いますが"




省かれた部分が物凄く気になるのですが...



"要は、彼女が私の傍へ帰ってきて下さったお陰で今の私が出来上がりました。勿論、烏頭さんや蓬さん達が居てくださったことも大いにありますが、"




...つまりは、周りの影響が大きい上
その鬼さんの元へ帰ってきて下さった女子?のお陰で丸くなられたと?



"そういうことです。彼女に愛されていると分かり、それをお返しする。...つまり彼女を愛すということです。逆も然り"






...むむむ。



―――――丁くんがだーい好きなんだもん!!――――――



...吉良、さん
あの方も、私を好きだと仰ってくださった。
彼女の今までの言動や、行動を思い返す


一杯ある

頭を優しく撫でてくださったこと
きつく 強く 温かく 抱きしめてくださったこと
笑いかけてくださったこと
家族にしてくださったこと


まだまだある
それは思い出しきれないほど
沢山 沢山




"...何か心当たりでもあるお顔をされておられますね"





...はい。
吉良さんに、お返しをしなくてはいけません
彼女は私を、好きだと言って下さいましたので

生まれ出てて、初めて言われた言の葉
好き、この単語は慕うという意味合いもあると覚えております




"好意的、とも言いますね。"




はい。

ですので、お返しをばせねばいけませんよね
鬼さんがされたように
私も、吉良さんを愛さなければ



"まるで、私がそのお方を愛せと言っている風ですね。別に愛さなくても良いのですよ?"





...嫌です
嫌です嫌です!!!
これは、強制などではありませんっ




――――――あはは!!どういたしまして〜私も、丁くんのお陰で毎日が楽しいよっ!!―――

――――やばっ凄い嬉しいよ!!もっと呼んでくれてもいいんだからね!!!―――

―――やっぱり丁くんを抱きしめると、落ち着くなー――


―――なんかやっと、丁くんに少しだけ近付けた気がする!!―――




あァ、また中が苦しくなってくる
吐きそうだ
辛い
気持ちが悪い

うゥ゛...くる、しい
吉良、さん...
うっつ...うぅ、


目から水が溢れる
これは?
初めてだ
自分から多量の水が出る
彼女を思い出せば 出すほど溢れてくる
自然と声さえも 聞いたことのない変なしゃくり上げた声が漏れる




"...答えが出たみたいですね。"




え?
私の、答え?



"今度二人の間に、男の方が来られるのでしょう?"



はい。
...取られ、たくなどない..です




"それが、貴方の悩みのお答えではないのでしょうか?"




これ、が?
これは、この感情 この中の物はなんというのですか?



"あァ...もう時間ですね。では、私はこれにて失礼致します"




あ!!お、お待ちくださいっ
この感情、これの呼び名を―――――!!




"またの機会に―――――――――"






待って、くださいっ
鬼、さん...!!


鬼さ―――――――――――


淡く白い光が 目の前を奪う
何も見えない

何処ですか?

吉良さん
見えない
何処ですか?












目の前には、彼女のお顔。

笑いかけてくださるあのお顔

私が読んでいる本を覗き込んでくると、奪い取り何かを言っている

聞こえません 聞こえないんです

...痛い
彼女が私の額に指を弾く
地味に痛い


返してください!!
...いえ、そのままでも良いですかね

吉良さんと遊ぶほうが、楽しそうです




...あ、やっぱり今の気分は本がいいです――――――――














「―――――きてー。あ――――!!」





この声は今先程、私の手から本を奪い取った主の声。
お返し、ください...
本。







『む...んっあ、吉良さん本返してくださいよ..』

「私何もとってないよー」






彼女が苦笑混じりで笑いかけてくる

ああ、朝なのですね。
把握しました

あれは全て、夢だったということなのですね


でも、悩みの答えは出た...?
彼女を誰にも取られぬように せねば。
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