もう一人の人生編 参

□第拾捌話【寝床確保!!】
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「―――――......ただいま留守にしております。ご用件は一切述べず、そのままお切りください。」


〔"ちょ、ちょっとちょっと先輩!!流石に―――――!!?"〕


『(余り良くは聞こえませんね)どうかされたのですか?』






彼女が強面真っ青並に険しい顔でチッと舌打ちをする
彼女がこのようなお顔をされたのは初めて見ました
いつもは温和そうで、優しいお顔なのに...

すると、彼女は私の方を向くと
先程の険しい顔を解き、安心させてくださるように微笑む。





「ん?ううん気にしなくてもいいよ。ちょっとイラっとしてるだけだからね。」

『(そ、そうだったのですね。しかし何故...?)』


〔"え!?先輩イライラしてるんすか?何があったんすか!!ガキがまた、我侭でも言ってるんすか?"〕


「......チッ」

『(あ、また舌打ちされた。)』






彼女はでんわと言うものに再び戻ると、更に一層眉間に皺を寄せ 二度目の舌打ちをした
そしてそのお顔は正しく

般若の如く。







『......恐いです。』


「え?あ、ごめんね?丁くんには...ちょ う く ん には怒ってないからね?』

『(そうは言われても、そのようなお顔をされては...不安にしかなりませんよ)...ふう』


「わっ!!ど、どうしたの丁くん?」







浅く短く小さく溜息をつくと、彼女の身体にギュッと抱きつく
何故抱きついたかと?...答えは至って明快。

...さっさと声の主と会話を切って欲しいがため。
口実は落ち着いて欲しいため、ですがね





〔"せ、先輩!?――――!!ま、ままままさか...――――「な訳ないでしょ。」...で、ですよね"〕


『(本当に聞き取りにくいことこの上ありませんね)』


「ごめんね丁くん。怖がらせちゃったみたいね」

『いえ、もう落ち着かれましたか?』

「うん!!ありがとうねっ」






吉良は屈み込むと、でんわ片手に空いた手で私の頭を優しく撫でてくださる
やはり、このひと時が一番和みます

荒んだ中でさえ、穏やかになるのですから。






〔"あー!!あー!!先輩っ本題入りたいんすけど!!!?"〕

「...チッ早く言いなさい。この電話切ったら私は丁君と遊ぶのよ。」


『本当ですか!!何をするのですか?行散ですか?勉学?それとも何でしょうか!!』






彼女が再び立ち上がったために、私は彼女の般若のようなお顔を眺める

...今はまだ外は晴れておりますし、どうせならば行散がいいですね!!あ、ですが地獄のも気になりますね。







〔"...えーっとですね。明日の件のことなんすけど、何時頃―――――――?"〕


「え?んー...そうねえ、お昼過ぎくらいでいいんじゃないかな?」


〔"つまり昼飯は―――...「そっちで食べてきてねー」――..あ、はい"〕


『(図々しいことこの上ない...?)』







彼女の料理を他の人間が一緒に食べるなど...
あるまじき事です
家族でもないのに、一緒にですか?
無理ですね。はい







「夜は食べて行ってもいいけど、どうする?」

『え?(今なんと?)』


〔"―――――!?是非!!―――――――っ"〕







彼女のたった一言、それだけなのに
頭の中が一瞬真っ白になった

声の主と一緒に 食事?

吉良は 誰彼構わず 人を家族にするのですか?
そういうことなのでしょう?









「じゃあまた明日お昼辺りに待ってるねーじゃあねー」

〔"はい!!はいっす!!――――――っ"〕


『(あァ、また疼く。中で何かが蠢きだしました)くる しっ...―――――――』







私は彼女の傍をバレぬよう離れ、外へ向け走り出す

苦しい 苦しい 

ここは 息苦しい
突然息苦しくなった

解らない。 解らないんです。
最近になり、本当にこのようなことが多々ある

...鬼さんにきっちり聞いておくべきでした。
この感情の名を







『......阿呆者』






ポツリと彼女の悪口を言ってしまった

余り遠くへは行かず、えれべえたの隣の段がある石の上(4つ程降りた所で)に腰を落ち着かせる





『......ふう』






ため息を漏らし、腕の中に顔を埋める
何故私はこんなにも彼女のこととなると必死なのだろうか
...疲れてしまった






――――――ポンポン



『っ!!?吉良――――――――――』








誰かが私の頭を二度触った
顔を勢いよく上げ、後ろを振り向くと誰もおらず。
...どういうことでしょうか

その数分後に本物の彼女が登場致しました








「あ!!待って丁くん―――――――」

『ここに居りますよ?』


「...え?」







彼女は壁に激突し、べったりと引っ付いたまま下を覗き込んでいた
何をされているのでしょうか?

...横顔ではありましたが、彼女の表情は
何処か焦りや怒り等が含まれている気がしました






「あ、れ?丁くん...?さっきここ降りて行ったんじゃ?」

『(何を宣っているんですかこの人。)はい?私は部屋を飛び出してから此処に居ましたよ』


「...うそ。じゃあ今のは誰よ。...後ろ姿とか髪型も一緒だったじゃない」


『(後ろ姿?髪型?)』






彼女は辺りを挙動不審に見回す
しかしそこには人っ子一人居やしない

...ふむ、







『私の後ろには何方も通ってはいませんよ?足音もしませんでした。』

「う...そ、意味わかんないし、」







彼女の表情はみるみる内に青ざめていき、血色が悪くなった
だ、大丈夫でしょうか吉良?

微妙に手が震えてらっしゃいますし、







「...と、取り敢えず部屋戻ろっか」

『えっは、はあ......』


(飛び出した意味がもはや意味を成していない)







そっと差し出された手を握ると、二人で住まう家屋へと戻る

...しかし、私の頭を触ったのは何方だったのでしょうか。
心なしか、彼女の手つきに似ていたような、そうでもないような...

いや、あまり考えないようにしましょう。
かえって脳を混乱へ陥れるだけですし、
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