もう一人の人生編 参

□第拾玖話【想いを口に出すのは、やはり恥ずかしい】
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どうやら気づけば、私は吉良の膝の上で眠ってしまっていたらしい
まあだからと言って、膝の上からはまだ退く気はありませんがね。

薄めに目を開ければ、彼女の顔が見えた
彼女は真正面を見つめ、目を閉じられている
黙想でもしているのでしょうか?



暫く、彼女を見つめていると本の一瞬のみお顔に眉間に皺を寄せ歯を食いしばられている





「...白、澤...」





ポツリそう呟く
私に向けいった訳でもない、誰にともなく言った名なのか何なのか解らない言の葉。
ですが不思議と、ソレを聞くと腹立たしくなる
この中の苛立ちを鎮めるためか何なのかは不明ですが、彼女の髪をクルリクルリと弄ぶ

...はあ、またですか。






『...それは何方ですか』


「!!?...起きてたんだね。おはよう丁くん」


『...お早う御座います』





チラリと彼女へ視線を向けてみると、驚愕とは言い難いが一応驚いていたのか 目を見開いていた

...いえ、今はそんなことどうでもいいこと。






『...それで、はくたくとは何方なのですか?』


「え?」


『何度も言わせないでください。両の目を指で突き刺しますよ』


「えっそれは勘弁してください」


『では、早く言ってください。』






どんなに誤魔化しても無駄というもの。
そんなに上ずったお声で目を瞬かれたって同様です
私は然とこの耳に聞き入れたのですからね

すると、彼女は突如私の頭を優しく撫でてくる

...ど、どんなことをされても、誤魔化しはできませんからね!!






「...私にもよく分かんないんだけど」


『そんな理屈が通るとでも?(イラッ)』



「...ダメですか?」


『駄目ですね』





彼女がヤケに大きいため息を長くつく
なんですか。何故そんな長めにするんですか?
引き下がりなどしませんからね






「んー...えーっとね、前にも夢に出てきた人なんだ。
格好は..医者、かな?薬剤師さんかな?それに頭はには白い頭巾を被ってる人なの」



『......頭巾、薬..(薬剤師――給食当番?うっ頭が(()』


「それでね、名前はさっき聞いたんだよ。ここまでが私が知ってるはくたくって言う人のことだよ..どうかな、ご納得頂けました?」



『(頭巾...もやっと..給食当番、......極楽蜻蛉?)』





頭の中に理解しがたい単語が次々と浮かんでは消えていく
――極楽蜻蛉 ろくでなしの色魔 六つ目 ......白豚――


ハッとそこで我に返る
彼女がじっと私の方を心配そうに見つめ、頬を突いていた







「...丁くん?」


『あ、はい。何でしょうか(地味に爪が刺さり痛いです)』


「...何考えてたの?まさか何か知ってるとか?」


『(なわけないでしょう。記憶にございませんから、)』






膝の上で首を左右に降ると、彼女がビクッと肩を跳ね上げた
恐らく、髪が膝に当たりこそばゆかったのでしょうね






『いえ、ただ...非常に腹立たしくなりました』


「...え?」


『そのはくたく、頭巾、やくざいし、と言う単語を聞くと非常に腹の底が煮えくり返りそうなんです。何故でしょうか?』


「何故って私に言われましても...」


『(まあ、そりゃあそうですよね)』






彼女は私の視線が居た堪れなくなったのか、ふとい目を逸らす
まあ他人に聞いたところで、答えなど出ないことくらい分かっておりましたし..己で見つける所存です






「私が思うに、何だか丁君と関係してるんじゃないのかなーって思うの」


『(え、何故に?)私とですか?』


「うん。何かこう、心当たりとかってないのかな?」


『(問を問いかけで返された...)』






ふむ。
今の所接点も無ければ、何もありませんが...

強いて言えば、先ほどの脳内に巡っていったあの言の葉たち
...何かありそうですよね。
もしや、なのですが鬼さんと何か関係があるのかもしれませんね
あくまでもしやですし、脈絡もありませんけど






『...先日の事なのですが、鬼っと呼ばれた方が私の夢に出てこられたのです』


「...鬼?」


『はい...格好は確か、黒を基調とした着物で帯が赤だったかと。額には一本の突起物が生えておられました。..そしてだいぶ大きな方でしたね』







彼女は目を逸らしたまま、何か思案されているようだ
彼女こそ、何か知っておられる風にしか見えない
やはりこの私に嘘をつかれた、ということでいいでしょうか?

...しかし、その思考は彼女のとある言葉で打ち切られた







「"鬼灯"」



『ほおずき...?(あの、赤がちの?)』


「多分だけどね、丁くんが言ってる人の名前は鬼灯って言う人かもしれないの」



『鬼灯、さん(その根拠は如何に...)』



「でも、あくまで多分なんだけどね...」






ふうと一度話を区切られる
恐らく、私と同じ状態なのでしょうね
余りにも突然、莫大な情報が入り込み頭が混乱されているはず
今現在、私でさえそうなのですから


すると彼女は丸い壁に掛けてあるとけいに目をやると、あっとされた顔をする
どうやら既に夜に差し掛かっているようだ
夕餉の支度に取り掛かろうと、私の頭を持ち上げるが 私はそれを全力で阻止する

待って下さい。まだお話は終わっておりません







『その鬼灯さんと、吉良は夢の中でそういうご関係だったのですか。』


「へ?」






彼女は何やら、百面相をしだす
困った顔をしたり焦ったり、目を泳がせたりと忙しない

...そんなにも言いにくい関係なのでしょうかね






「えっと...確か私が見た時のは、私っぽい人と鬼灯?さんが幸せそうにしてたよ?私?は赤ちゃん抱っこしてたかなー?」


『(赤...子!!?)っ...有難うございます。教えて頂いて』



「え?ううん。どういたしましてー」






...聞きたかった事はこれで聞けました。
どうやら彼と吉良?は知り合い以上のご関係。

ズキリ ズキリ と心の蔵が今まで以上に痛み出す

しかし彼女にはご心配などお掛けしたくない
目の前で笑って下さっている今の吉良を。
だから私はわざと 元気に首を縦に振る


...まあ、外での夕餉で更にすしなるものが食べられるというのですから
強ちと言うか、3割ほどは楽しみですので。

鬼灯、さんと吉良。


彼女が慌ただしく身支度をされている所、呆けた顔で見つめる

何なの、でしょうか。
本当にこの心の蔵の苦しみは

何方か早く、お教え下さい。
でなければ、...私が私でなくなりそうなんです。
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