短編
□人魚姫
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『行ーってーみたいーな、外のーくーにー♪』
何度も行くことを夢見たが、国の外へ出れるのは成人した人魚だけ。
11歳になったばかりのサヤはあと7年待たなければ外には行かせてもらえない。
『そんなに待てないよ・・・』
ゴロンと部屋のベッドに横になる。
こっそり行くことも考えたが国の外へ出るには国と海を繋ぐ関所の門番の目を盗んで出なければならないし、こんな小さな身体ではすぐにバレてしまう。
さてどうしたものか・・・。
ふと目に付いたのは、部屋の隅で埃を被っている薬品棚。見ると中には少し錆びれた鍋や、表紙がボロボロになった本。魔法薬に使う為の薬草や材料その他諸々。傷んでたり使い物にならないようなものまであるからきっとセブに使われなかった物だろう。しかし、よく見ればほんの少し傷んでいるだけで使えそうなものも沢山あった。
パラパラ…とボロボロの本のページをめくる。そこには魔法薬の作り方が書いてあった。
流し読みしているとあるページに目が止まった。
その時、サヤは閃いた。
『・・・この薬を作って変装すれば!ふっふっふ…伊達にセブの後ろ付きまとってたわけじゃないわ。薬ぐらいちょちょいのちょいよ!』
そう言ってサヤは薬品棚を漁り始めた
『クサカゲロウに…ヒル…はないか。満月草…と、ニワヤナギ…あ、だめだ。腐ってる。二角獣の角の粉末に、毒ツルヘビの皮の千切り、あ。結構あるね。ないのは後でセブからくすねてこよーっと』
サヤは必要な分の材料を選別してカバンの中に入れ、黒い笑みを浮かべた。
ーーーーーーーーーー・・・・・・
お仕置きが終わって1ヶ月後。
サヤの自室にはグツグツと煮えたぎった鍋がなんとも言えない臭いを漂わせていた。
『やっと出来た・・・』
1ヶ月、長かった。セブの薬草庫から材料をくすね、侍女や姉上達にバレないように作るのに精神を削り、夜も寝ずに作った薬が遂に・・・!!
『ポリジュース薬ってこんなに大変なのね・・・』
読んでみるのとやるのでは全く大変さが違った。
『それにしても…。ほんとにこれ、成功してる…、のよね?』
鍋の中身はドロドロと黒く、美味しいものではないとひと目でわかる。それを三つの小瓶に移し、残りは蓋をして部屋の奥にしまいこんだ。
『あとは・・・、変身したい人の一部、と』
誰にしようか決めかねていると、コンコンッと部屋のドアがノックされた。
「姫様、ベッドのシーツをお取替えに参りました」
なんというナイスタイミング。この侍女には悪いが代わってもらおう。
『はーい、どうぞ』
「失礼致します」
丁寧にお辞儀をして入ってきたのは、長年サヤに仕えてくれている侍女だった。
彼女はベッドへ向かうと素早くシーツを取り外し、新しいシーツに取り替えた。その様子をみてサヤは
『ねぇ、貴女。毎日こんな仕事疲れるでしょ?これ、あげるわ。いつものお礼よ』
そう言って差し出したのはカップケーキ。…勿論眠り薬入りだ。
「そんな!それが私めの仕事ですから…」
『いいのよ、受け取って?貴女にはとても迷惑かけてるし…。それに私、2個も食べてもうお腹いっぱいなの。だから、ね?』
有無を言わさない笑顔でケーキを差し出す。
それを感じ取ったのか苦笑いで侍女はカップケーキを受け取った。
「では、有難く頂戴致します。後で大切に…」
『駄目よ。今食べて』
「えっ?」
食い気味に急かされた侍女は驚いた。
『はーやーく!』
ここで食べてもらわないと意味がない。
その勢いに気圧されて侍女はおずおずとカップケーキを口にした。
その途端、ふらっとバランスが崩れベッドへとダイブした。
『ふふっ成功♪ごめんね、ちょっと髪の毛貰いまーす』
そう言って、髪の毛を2本ほど引き抜いた。
そのうちの一本を先程の小瓶に入ったポリジュース薬の中へ入れる。
シュワァーと煙が上がり黒い泥のような液体は赤い透明な液に変わった。
あとはこれを飲むだけ。
臭いは相変わらず酷いが意を決し、一気に喉へ流し込む。臭い通りの酷い味に吐きそうになるが、既のところで耐えた。
『・・・うぇ〜…まっず…』
全て飲み干し口に広がった不味さを洗い流すために洗面所へ向かう。
その時、身体の中が捩れるような苦しさにサヤは身悶えた。
強烈な吐き気に襲われ急いで洗面所へ駆け込む。
洗面所の鏡をみた瞬間に危うく吐き気も忘れて叫び声をあげそうになった。
そこには11歳の少女ではなく、今ベッドで寝ているはずの侍女の姿が映っていたのだった。