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#16

「何で....どうしてお前らがここに....」
「さーね。
ただ、どう頑張っても俺たちから逃げられないことはよくわかっただろ?

ほら、帰ろう?」
「お前がいなくなってから大変なんだよ!!!
速くもどらねーとどうなることか....!!!」

言いながら近寄る二人組に、
影山は反物の裾を手のひらでつよく握りしめながら後ずさりをする。

まだ戻ることは出来ない。

まだ

まだ

「い、やだ。」

ふるり。
振った首が音をたてそうなくらい大きくかぶりをふる。
国見と呼ばれた少年はそれを見るや否や、眠そうに垂れた瞳を鋭く光らせた。
まるで肉食獣のようなその気圧に影山は腰を抜かしそうになるのをなんとか耐えると、いつもよりも数倍は凶悪な顔つきで国見をにらみ返す。
二人の回りに佇む定員たちはなにも言わず、しかし、瞬きをする暇もなくその情景を見つめていた。

気付いたのだ。自分達が関わることのできないところで、この三人は一緒に育ってきたのだ。と。

「ねぇ。俺さ、あんまり喧嘩とか好きじゃないんだよね。」
「......っ
俺もだ......
ここの店に迷惑もかけたくない。」
「ふーん。じゃあさ、さっさと帰ろうよ。
おとなしく変えるんなら、いたい思いしないですむよ?飛雄。」
こてん、と首をかしげ、足音を響かせながら近寄る国見の隣で
らっきょのような頭をガシガシとかいた金田一が、「マジおこかよ...」
と呟いている。
確かに、彼を取り巻く殺気は半端ないほど大きい。

しかし、まだダメなのだ。

「無理だ。
俺はまだ見つけてない。国見。
分かってくれ。」
「何を」
「俺が今戻ったら....
あの人は......

及川さんは確実にダメになる。」

「......................」
「だから、頼む。
見逃して____」

「今度は、」
「は?」
「今度は守るから。
絶対。あの人の好きにはさせないから。」
「_____っ」

「戻ってこいよ。飛雄.......」


国見の片手が影山へと向かって一直線に伸びていく。
それを他人事のように見つめながら、彼はその場を動けずにいた。

______
今度こそ、今度こそ守ってくれる?

そうしたら、あの楽しい日常が帰ってくるのだろうか?

大人しく、腕をつかんでこようとしたその手を受け入れようとした。
そのときだ。


「やめろぉおおぉおおお!!!!!!

うちの家族に手ぇ出すんじゃねえよ!!!!!」

バチンっと大きな音を立てて、それは叩き落とされる。
突如響いた大きな声に、国見は気だる気な視線をそちらへと向けた。

そこには、影山を庇うようにしてこちらを睨み付ける
痛々しいくらいに眩しいオレンジ頭の少年がいた。

おまけに自分よりか背が低く、
力を入れたらおれてしまいそうなほど弱々しい。
国見は大方日向の観察を終えると、バカにしたようにふん、と鼻をならした。

「なに。お前。
邪魔しないでくれる?」
「ひ!!
お、おおお前、影山と、前一緒にすんでたやつだろ!!?」
「ん。一応そだけど。」
「じゃあ、なおさら返せねー!!!
影山は今、俺たちの仲間だ!!!家族だ!!!

お前は前、影山を見捨てたんだろ!!?
だから駄目だ!渡さねー!!!」


震えながらも、怖がりながらも、日向は影山を渡すまいと懸命に声を張り上げる。
影山は言っていた。
楽しい日々を過ごしていた。
しかし、突然それは終わりを告げ、
裏切られ、ひどい目に遭った。と。
こうして今の疑心暗鬼な影山を作り出してしまった元凶に彼を返すなど、日向はどうしてもすることができなかった。
家族となった今ではなおさら。

しかし、

「は?

ねぇ。何で知ってんの。」

ばくりと、心臓をも浮かしてしまうほどの殺気に、日向は反論の気を押しやられてしまうような感覚に襲われた。

「日向!!!」

心配したように大声を張り上げて、
菅原が隣へと駆け寄ってくる。
吹き出た汗を片手で拭いながら、
日向は彼の顔を見て慌てて声を上げた。

「す、菅原さん!!
あぶねーから離れてください!!!」

しかし、彼はかたくなに首を横に振る。危険なことをしているとわかってなお、影山を庇うようにして日向とともに壁を作るように腕を広げた。

「菅原、さん」
「影山ーそんな不安そうな顔すんなべや。
俺ら、お前のこと大事なの。
守ってやりたいくらいに、大事に思ってんの。」

に、と笑った菅原の笑顔はなによりもたくましくて、暖かい。

そして、それを目にした月島、山口以外の従業員は互いに顔を見合わせるや否や、彼に続くようにして影山と国見、金田一の前へと立ちはだかった。

「大地!!田中、西谷、旭!!」
「店長は俺だ。
まず、大事な店員つれてくんなら
用件を教えてもらおうか。」
「突然店押し掛けてきてなんなんですかコラァ」
「大事な弟分、簡単に返してやるかっての!バーか!」
「ごめんなさい。
でも、こいつ大事なここの働き人なんで。団子丸めるのも早いし、なんせ腕がたつ。
連れてかないでくれませんか。」

一人一人、思いを口にしては彼を覆い隠していく。

その姿を視界に写しながら、国見は苛立たしげに口を開いた。

「なに。

なにそれ。

裏切りって確かにそうだよ。
俺はこいつ見捨てた。


でも。


なにも知らないやつがその事を口にするな。」

カチャリ。
微かな何かを動かす音が
彼の方から聞こえてくる。

しかし、明らかに相手を殺してやろうという殺意が
彼らの歩みを止めていた。

「返せ。

返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ。

俺には、俺たちには飛雄が必要なんだよ。」


狂ったような心の叫び。
瞳孔が開いた殺意のこもった瞳。

すべてが痛々しくて、そして、恐ろしい。

ぞくりと全員の背中に緊張が走ったその時だ。

す、と何かを手にした国見の腕が横にスライドした。

それと同時に、後ろへと佇んでいた影山が声を張り上げる。





「全員伏せてください!!!!!!!!!」
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