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#19

「クロちゃんったらさー
全然連絡くれないんだもん。
徹こまっちゃう!」
「ほんとお前の口は達者だな。
黙ることしらねーのかこのクズ。」
「くくっ
相変わらずだなー二人とも。」
「お前もな。黒尾。

お。しばらく見ねーうちに弟子ができたか?」

ちらり。
こちらを除くようにして顔を見せた岩泉に、孤爪は隠れるようにして黒尾の背後に身を預けた。
そんな彼を見て、及川はふぅんと興味ありげに呟く。

「へぇ。音駒病院で有名な医者って聞いてたけど、まさか看護師さん見つけてここまで立派に成長するとはねー
クロちゃん、あなどれんっ!」
「まだまだこれからですぜー
世間で俺の名前を知らない奴がいねーくれー有名になるから待ってな。」
ケタケタと二人分の低い笑い声が外の空間をこだました。

____こいつら兄弟かっての。

見慣れた男二人の意気投合の姿に、岩泉はあきれて、ほぅ、とため息を1つ漏らす。

しかし、その穏やかな雰囲気は一瞬にして終わりを告げた。

ぴり、っとした空気が岩泉と孤爪の頬をかすめ、
二人して身を瞬時に低くして、
安全位に入る。

視線の先にはなんら変わらぬ肩を組み合う二人の姿。
しかし、どうにも、その空気がガラリと変わって見えたのだ。

「でよー、及川。」
「ん?なぁに?」

「遠回しに言うのはなれてねぇ。
だから単刀直入に言うが____」

ヒュウ、と、一枚の枯れ葉が二人の前を緩やかに

舞う。

「目的は何なんだ?

何しにきた。」



「飛雄を返して。

クロちゃん。」



及川はその言葉を隠そうともしなかった。
ただただ欲望に忠実に
口を動かしている。

そして黒尾は悟った。

ああ、影山が帰りたくない理由がわかった気がした。と。

「あいつはここにはいねーよ。」
「うそ。通報人くんが言ってたよ。
飛雄はもう、ここにしか頼るところがないからって。」
「さぁ、知らねーなぁ。
他にも見つけたんじゃね?あてのある場所。」
「クロちゃん。」
「とにかくここにはいねーから。さ。
今日はもうかえってくんねーか。
朝も早くて迷惑だから____」
「黒尾。」
「_____.....なんだよ。」



「あんまりおいたがすぎると、

殺しちゃうよ?」


やっぱり。

黒尾はあまりの想像通りさに笑みが浮かんだ。

___こいつは完璧に変わってしまったのだ。

そしてきっと影山がそこに深く関わっているのだろう。と。

それでこそ、今、影山をこいつに返すわけにはいかない。と、黒尾は覚悟を決めたかのように表情を引き締めた。

「お前さ。
あのときいってたよな。

『人殺しはしない。
強いものから弱いものを守るんだ』
っつって。

......そうじゃなかったけか?」
「うるさい。」
「まぁまぁ。聞けって。
なのによ、お前は今こうして普通に殺すっつーフレーズを口にする。


何があった?
影山が何か、鍵をにぎってるっつーのか?」
「うるさいってば!」
「うるさくねぇ!


よく聞け、及川。


元、お前と同じ北川第一団のメンバーだった俺の話をな。」

ば、と、組んでいた肩がはがされる。
話せば出してやるとでも思っていたのだろうか。
随分と戦闘体制をとる時間が長くなったものだ。

「そんなのもう関係ないだろ。
お前は北川第一団の団員をもう抜けていったんだからさ。」
「おう。もっと大きな仕事で人助けがしてぇってな。

でも、お前は変わった。

俺が団員にいたとき、お前はそんな黒い雰囲気、持ってなかった筈だろ。
昔のお前は、誰からも慕われて、優しかった。弱えー人の気持ちを誰よりもわかってやっていたはずだ

なのに今はなんだ。

今のお前からは憎しみしか感じられない。」
「いいから飛雄を返してよ。
黒尾。」
「できねーし、しらねーな。
今のお前に何か渡すと、
全部千切りにして帰ってきそうで嫌だわー。」

二人の視線が鋭く絡み合う。
長い沈黙のあと、先に口を開いたのは及川の方であった。

「ん。分かった。
そこまで言うなら仕方ない。」

ゆらり。
彼の右腕が蜃気楼のように蠢いた。
手のひらは、刀の鞘をつかむ。

「力付くで奪うしかないね。




岩ちゃん。

今日も信じてるよ。」

「はぁ。やっぱりこうなるのかよ。」

安全位からゆっくりと立ち上がった岩泉は、及川の隣へと並ぶようにして刀へと手をやり姿勢を低くする。

同じ構え。同じ刀の位置。
同じ姿勢。

北川第一団、団長と副団長である彼ら自らが生み出した、
長刀奥義、『水色(すいしょく)の陣』。

____参ったなぁ。

黒尾はポリポリと頬をかくと、
背後へと佇ずみ続ける孤爪へと声を張り上げた。

「おーい。研磨。
そろそろ出番だぞ。」
「本当に、本当に闘うんだね。クロ。」
「おー。
負けられねー戦いになるなぁ
これぁ。」
「うん。
戦うのなんて何年ぶりだろう。」
「お前は奴隷ン時少し戦術習わされたっぽいからな。
ま、今回は俺にあわせてくれよな。」
「分かってる。」
「ん。じゃいくぞー」


す。と、二人して胸元を探りだす。
そこから現れたのは重々しい、
鉛でできた二本の十手。

片足を後方へ一歩下げると、
彼らは腕を前へと交差して
姿勢をあわせた。

そして二人交互に口を開く。


「"俺達は血液だ"」

「"滞りなく流れろ"」

「"酸素を回せ"」


「「"『脳』が正常に働くために。"」」


黒尾直伝奥義。
『流動の維新』



二つの奥義をかけた戦いが、
今、始まろうとしていた。
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