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結果からいうと、彼のゴール地点は依頼人の家の門の前へとなった。
結局その勢いとどまることなく。
走るがまま日向はメモ用紙に書かれた地図の場所までひとっ走りすると、激しく上下したにも関わらずきれいに配置された団子の重箱を再び抱え直した。
「ふぇー
思った以上にでけーとこ。はんぱねぇー」
首をぐるんと上に向けると、ようやくそのお屋敷の全貌が視界に収まるようになる。
赤茶色の瓦の屋根はてらりと光沢を伴っていて見映えがあり、からすの団子屋のくすんだ青より全然ちがって見える。
日向はしばらくはその大きさに圧倒されていたが、ふいに、足がガクガクと震えだした。
____やっべー。緊張してきた。
背中からは大量の冷や汗が流れ出てきて、額にびっしりと水滴がはりつく。
痛む腹を抱えてしゃがみこもうとした時だ。
「あ、ほんとに来てくれたんだ...。
ありがと。」
「ひぃっ!!!?」
「ひ....??」
からら、と大きな建物の扉が目の前で突然開かれたのだから、彼からしたらたまったものではない。
しかし、そこから顔をうっそうと除かせた受取人の少年は、酷く小柄で日向は拍子抜けした。
短気で無精髭を生やした巨体の男性を思い浮かべていた彼は、その姿を見て、ほ、と息を吐き出す。
__あ..なんだ。なんか優しそうな人だ。
そして不思議なことに、人間、落ち着けば落ち着くほど周りがよく見えてくるようになるものなのだ。
まず視界に留まったのは目立つ髪色。
日向のおひさまカラーにも負けない、カラメルのような
こげ茶色から
タンポポのような黄色へのグラデーションサラサラヘア。
額で前髪を二等分にしており、すっぽりと輪郭を覆い隠している。
そして豪華そうな緋色の反物。
やはりこれだけの大きな家をもっているならば、かなりの金持ちであるのだろう。
しかし、何より彼の興味をひいたものは___
「はー...目、でけーんすね..。」
「え、__え?」
「いやぁ、すっげー鋭い目してんなって思って.....。」
「は、はぁ......。」
まるで猫のようだと日向は思う。
キリリとつり上がり気味の目は、ぱっちりと彼の存在感を表しており、何故だか目が離せない。
むー、と唸りながら暫くはその場を動かずにいると、ふと、菅原の声が脳裏を過った。
『いいかい、日向。
遠方注文のご配達の際はあまりお客様の元に長居してはいけないよ?
きっと多大な迷惑になるだろうから____』
「はっ...!!!」
「え?」
「す、すいませんしたぁぁあっ
これ、団子です!!
うちのみたらし最高です!!!」
「うん。うん?
あ、ありが____」
「失礼しやしたー!!!」
「え!!?
ちょ、ちょっと待って...!!!
お兄さんちょっと....!!!」
お客の声が聞こえなかった訳ではない。
しかし、今の日向にはこれ以上留まるには危機を感じており、来たときと___いや、それ以上の速さで道を逆送していく。
不思議と息切れはしない。
疲れない。
何故かと問われれば理由は簡単。
頭のなかで今朝、盛大にぶっ叩かれていた活発な先輩の姿が絶賛スローモーション再生され、あまりの恐怖に心拍数がそれどころでは無くなっていたのだ。
___はよ帰ろ、はよ。
彼は通り道に足跡が残るほど、全ての力を込めて走りまくった。