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どれくらい走っただろうか。
へろへろになりかけで、それでも逃げるように走る彼を、
突然何かが足払いをくらわせた。
「ぐふっ!!!」
みっともなく顔面から衝突すると、日向はとうとうその足を止める。
と、いうより強制的に止められてしまったのだが。
「いってー!!!
くそ、何なんだよ一体!!?」
かばりと起き上がり、盛大に打ち付けた額を擦ると起き上がろうと腕に力を込める。
よいしょと腰をあげようとしたとたん
彼はすぐ異常に気がついた。
「..............は、......血??」
たらり、と腕を伝った生ぬるい感触。一体どこを切ったと言うのだろう。
あわてて自分の体を触り尽くしてみるが、生憎痛みを感じる部位は顔面以外どこにもない。
そもそも、転けただけではこんなに大量の血液が流れ出る訳がないのだ
。
____では一体、誰が。
そこまで考えて、恐る恐る後を振り向く。
どうしてこのような日に限って前後ろわからなくなるくらい走ってしまったのだろうと日向はぼうっとする頭で考えた。
そうであれば、この、彼が躓いた少年の傷だらけの体を
素早く気づいてやることができたというのに。
「え、うそ、だろ。
嘘だろ嘘だろ嘘だろ!!!?」
きっと行きにはいなかったはずだと日向は大急ぎで血塗れのその体に歩み寄る。
まずは脈拍確認だ。
「えーと、えーと...!!!」
日向は真っ青な細い手首に躊躇いながらもわし掴むと、自らの三本の指を動脈へと押し当てる。
ある。脈はある。つまり、まだ死にまでは至っていないということだ。
しかし、それは無いといって等しいほどに弱々しく、拍動を刻んでいた。
「くっそ!!俺じゃあなんもできねえよ!!」
何もできない自分に腹立たしさを覚えながらも、このままここへ少年をおいていくにほど彼の良心も衰えてはおらず。
「ふんぬぬぬぬぬぬっ!!!
でけぇ、重てぇ...!!!」
結局彼ができることと言えば
自らの足とバカ力で少年を運ぶことだけであった。
ただ、それだけのこと。
されど、それだけのこと。
この日向の行動が、今もふつふつと死へ向かっていっている少年にとって、生きる可能性を与えている分、この行動の価値は大きい。
「菅原さんに...!!!
菅原さんに報告を...!!!」
勿論大したスピードなど出せるはずもなかったが、それでも日向は彼を放り投げるようなことはしなかった。
*****
後に、日向はこの瞬間の出来事を
『知らぬ間にこの少年と、いつかの自分とを、重ねて見ていたのだ』
と気付くときがくるのだが、それはまた別の話である。