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「あの、お代はどうすればいいですか?」
「ん?」
「彼を助けていただいたお代です。お医者様ならそれなりの金額を支払わなければ....」
菅原はようやく重たい腰をあげると、玄関へ体を預けている黒尾へと歩み寄った。黒尾は暫くは驚いたように目を見開いていたが、
菅原の言葉にどう切り替えそうかと、うーんと悩み始める。
「ちょっとうちの連れが帰ってくるまで待っててくれねぇか?」
「??弧爪さんのことですか?」
「ああ。聞いてもらいたいことはあいつに聞いてもらってる。
俺は待つだけ。その内容次第で判断させてもらう。」
「はぁ.....あの、その内容っていうのは___」
「クロ。今戻ったよ。」
「おう、おかえり研磨。どうだった?」
ひょいと突然現れた小さな頭に菅原はびくりと肩を揺らした。
日向より少し大きいだけのその身長は酷く視界に入りづらく、おまけに足音を殺して歩く癖でもあるのか、孤爪の存在に菅原は全く気がつくことができなかったのだ。
__やべー。また墓穴ほっちまうとこだったべ。
以前日向を探していた際、実は自分のすぐ側にいましたなんて事件があり、多大なショックを彼に受けさせてしまったことよく覚えている。
背の小さい人の気持ちはその人にしか分からない。と、西谷にも半泣きで絶叫されたことがあるほどだ。
きっと小さい人はみなデリケートなのだろう。
どうでもいいことをぶつぶつ呟きながら考えていると、ふと、弧爪の鋭い視線に呼ばれて目があった。
「??なんでしょう?」
「.....いや、翔陽の名付け親__なんですよね?」
「!!!!?」
「翔陽が話してくれました....」
「あ、そっか。そういうことか。
はーびっくりしたべよ.....。」
菅原はふぅ、と大きく口から息を吐くと強ばっていた肩から力を抜いた。
その様子を見ながら、黒尾が安心したかのように微笑んだことを、彼は知らない。
「そうか....。
っつーことでお代はいらねーわ。」
「え、はい。
....ってええ!!?何故です!!?」
「煩わしーなにーちゃん。
あんだけ方便くっちゃべってたのに敬語かたっ苦しくつかっちゃってよー」
「そ、それはいいんです!
そうじゃなくて、何故....」
「俺もお前も同じ立場だからだよ。命の重さがちゃんと分かってる。
これだけで分かるか?」
「....え、もしかして...。」
噂は本当であったのか。
菅原は唖然とその場に立ち尽くした。
黒尾と弧爪を交互に見ては驚きを隠せない様子に、彼は来たときと同じように怪しげな笑みをこぼす。
「んまぁ、これも何かの縁だ。
もしなにか困ったことがあればまた頼ってこい。
住所は渡してあるしな。」
「え、あの....」
「それと、医者や看護師は患者の個人情報をやたらむやみにくっちゃべるのは禁止されてる。
それをわかった上で最後にお前にいっておくが...
あの少年君。大分厄介な過去を抱えてると見た。
長年病人を見てきた俺が言う。
信頼してくれてもいい。これは確実だ。」
その言葉を聞き、体を固くした菅原の肩をぽんぽんと軽く叩きながら、黒尾は孤爪の隣へと並ぶ。
いつのまにかかなり時間が過ぎていたのか、彼らの背景越しに見える空は夕焼けで真っ赤だ。
「精々対応の仕方に気を付けてやんな。
心の処置は俺らあんまり得意じゃねーからまかせんぞ。」
「.....失礼します。」
ぺこりと丁重に頭を下げる二人組を、菅原は今度は止めることができなかった。
しかし、こればっかりは伝えておかなければ。
すぅ、と大きく空気を吸い込むと、菅原は大地をも震わす大声で彼らへと叫んだ。
「俺らのうめぇ団子!!!!毎朝二本ずつ!!!」
「!!?」
「礼として受けとれ!
日向使って届けてやるから、待っててやってほしいべ!!!!」
そうしてにっ、と笑いながら手を降る菅原を遠巻きみて、黒尾もつられるようにして笑った。
「ははっおもしれーわ。
からすの団子屋。」
*****
夕焼けが眩しい。
まるでこの世全体が焼けているような、そんな景色のなかで、彼らは出会った。