*short*
□黒の猫。
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*国影 R-18
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それは雨の日の出来事。
俺はどしゃ降りの中、縮こまる猫を拾った。
*****
「え。やば。」
ぽつぽつ。
徐々に幅を増していくその水滴に、国見は吸い寄せられるように窓から覗き見る。
携帯端末を取り出して天気予報を確認してみれば、傘マークで表示された降水確立が60%をさしていた。
昨日の夜、偶然目に写ったときは30%だったというのに、天気というものはあなどれない。
___傘、持ってきてねーよ。
バサバサと、まるでバケツをひっくり返したかのような豪雨に国見は顔をしかめると、憂鬱に額を机へ擦り付けた。
いつもであれば、部活をしているうちにやむだろうという淡い期待を抱くが、いかんせん、今日は月曜日。
青葉城西バレー部は休息の日となっている。
「この。この。」
「いてぇっいってぇ!!!?
何なんだよ国見!!!」
「金田一のらっきょ。雨男。
お前の頭は何のためにあるんだよこのばか。」
「意味わかんねーこと言ってんな!!
ってあー。もしかして国見。
傘忘れたのかよ。」
図星。
伊達に四年間、同じ学校を通って来た訳じゃない。
ずばりと真相を当てられ、国見はさらに不機嫌に顔を歪める。
ほぼ八つ当たりで、続けざまにドスドスと幼馴染みの背中を小突いてやれば、あーはいはいと、苦い顔をしつつもそれを流してくるものだから面白くない。
あーだこーだ文句をこぼしているうちにも、もう帰宅路だ。
「入れてやりたいのは山々なんだけどよ、今日俺帰りにかーちゃんに買い物頼まれてるからこっちの道なんだ。
わりぃな。」
「別に。そもそも金田一なんかに期待なんかしてないし。」
「うっわー機嫌悪ぃ。
んじゃあな。気を付けて帰れよ。」
フラリと片手を振って去る友人の後ろ姿をブスくれた顔で見届けながらも、国見も家へと帰る水びだしの道へと一歩踏み出した。
もう既に土砂降りを起こした雨は、道路に大量の水溜まりを作り出している。
それを踏み締める度に泥水が靴のなかに入り込んでは、彼の足をぐじゅぐじゅに汚し始めていた。
「うーわ。最悪。」
トントンと、少し爪先で地面を叩くだけで、ぐっしょりと滲むような大量の水が漏れ出てくる。
おまけに前髪からはひっきりなしに滴が垂れてくるから厄介だ。
おかげで視界の範囲がいつもよりも狭くて歩きづらい。
「くっそ.....」
ずるずる引きずるように足を進めていく。
もうすぐ家も近い。
自分に言い聞かせ、勇気づけながら歩いていたその時だ。
ふと、国見の視線は
向かい側の公園へと釘付けになった。
黒い。
真っ黒く、うごめくなにか。
まるで、この雨の中、雷にうたれて黒こげになってしまったかと疑ってしまうくらいに黒いそれは、
ブランコの方面に歩いていくと、除き混むようにそこを調べ始めた。
_____なにやってんだあいつ。
声を出すよりも先に、足が動いていた。
国見は大幅に、そのブランコ周辺へと近づいていくと、おもむろにしゃがみこむその黒の腕をぐいっと引っ張ってこちらをむかせる。
真ん丸と見開かれた青い瞳。
黒い。と、思っていたその服の間には、それとそっくりの色をした黒猫の姿があった。
「_______?
くに、み?」
「ん。影山。久しぶり。」
「あ。え、えと___」
あからさまに動揺しだす、さっきとはまた違う、国見のもう一人の幼馴染み。
影山飛雄。
こうして顔を会わせるのは大会ぶりであろうか。
突然の国見の登場に気まずさを感じているのだろう。瞳はひたすらに明後日の方向を向いている。
____なにその顔。つまんない。
濡れ鼠の彼の瞳にうつらないことに、内心ぼやいて顔をしかめると、
国見はずっと感じていた疑問をようやく口にした。
「なんでこんなとこいるの。
お前、道、逆方面でしょ。」
しとしと。
相も変わらず降る雨が傘のない二人を容赦なく濡らす。
しばらくの沈黙のあと、にー、とか細くないた黒猫の声を合図に、影山はぼそりと語り出した。
「....ない」
「え?」
「こいつが寒そうに道路歩いてたの、無意識で追っかけてたから____
特に理由は、ない。」
ザーー。
雨粒の大きさが変わる。
どんどん重たくなる服を持ち上げながら、国見は思わずため息を漏らした。
___そうだ。そういうやつだった。
ふと、昔を思い出す。
それはまだ彼らが中学一年生の頃の話だ。
その日もこうして雨がしどとなく、
影山、国見、金田一の幼馴染み三人を濡らしていた。
『あ。猫。』
さあ、これから帰ろう。と傘を広げようとした時、
呟いて駆け出したのは他のだれでもない、影山であった。
彼はそのまま手に持った折り畳み傘を放り投げてその黒渕がついた猫をひとりでに追ったのだ。
国見と金田一は非常に焦ったのをよく覚えている。
なんせ、影山は足が早い。
傘を差した自分達が果たして追い付けるかどうか。
考えるより先に、仕方ねぇなと呟いた国見と金田一は駆け出していた。
せっかく持ってきた傘を懐にしのばせて、影山の後ろ姿をただ追う。
水を吸って重くなるジャージ。
靴下までぐっしょりとしめってしまった足元。
そして追い付いた場所は今と何ら変わらぬ、ここの公園であった。
「逃げないね。」
「??」
「猫」
「!!!
お、おう!!!」
嬉しそうにつん、と口をつきだしてそわそわしだす影山に、国見はうっすら微笑んだ。
今まで彼の目付きに何度も逃げをうってきた猫であるが、なぜかこういった雨の日は確実に捕まって来るのだから不思議である。
前回の時もそうだった。
『くにみ!きんだいち!
こいつ逃げない!』
言いながら黒渕猫を掲げる影山は髪の毛もびっしょりで、おもわず二人してはたきながら説教してやったものだ。
風邪をひいたらどうするのか、と。
___そして、その後_____
国見はふと、考えるように顎を抱えてから、そっと濡れた髪を掻き分けて影山の方をみやった。
「そのまま帰ったら風邪引くし...
うち、上がってく?」
その、目が見開かれた顔といったら。
昔から何一つ変わらない幼馴染みの動作がおかしくて、国見はおもわず口許を覆い隠した。
そうでもしなければ、にやけているのがばればれだ。
「い、いいのか?」
「良いから言ってるの。」
「じゃ、じゃあ...」
おじゃまします。
ペコリ、と、下げた頭の下で、
またひとつ、黒猫がにゃーと声をあげて鳴いた。
ふん。影山に抱かれるなんて、
贅沢な猫だなお前は。