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#7

「ふんふんふふーん♪」

粘りが少し強くなってきた。
水を足す。
そのせいで薄くなってきた醤油を足す。
味見をして、砂糖が少なくなっていることに気がつく。
また、足す。

みたらしを作るのには絶対的な味覚の持ち主が必要となる。

たとえ砂糖1グラム程の違いでも、タレというものは驚くほどに味を変質させていくのだ。
また、火力の加減も絶妙でなければならないため、思っている以上にその役割は重要となってくる。

少しこげた味が混ざってきた。
火力を弱め水を足す。
とろみが少なくなってきた。
片栗粉を追加する。

そうこうして、味見を続けていくと、ようやくいつものからすの特製みたらしにたどり着くのだ。
匙ですくって口に運ぶと、甘い醤油が舌の先で蕩け、香ばしい臭いが充満していくのがわかる。
くぅ〜と唸ると西谷は歓喜に声を張り上げた。

「さっすが俺様っ
天才っ!!!」

いつも注意をされているが、どうしてもこの瞬間だけはお玉を持つ手に力が入ってしまい、振り回しまくってしまう。

おー、のやっさん、今日も絶好調だな。と微笑む田中の顔を見て、ようやく西谷は気がついた。

自分の背後にうっそうと立ち尽くしていた、新人の後輩の姿に。

「おー影山!!!どした!!?
格好いい先輩に聞きたいことでもあるのか?」

ふん、と得意気に胸を張れば、田中が、よ、男前!と隣から煽りを入れてくる。よせやい、と照れ隠しに頭を掻けば、影山はふわっと頬を紅潮させた。

「そ、それも食いもんになるんすか...!!?」

「へ?」

「そ、その茶色の透明なやつも
く、食い物なンすか!!?」

それは余りにも単純な質問であった。
それが故に、西谷は上がる口角を抑えることができなかったのだ。
まぁ、もとから抑えるつもりなど更々なかったが。

「.........ぶ、」

「え?」

「ぶふーーっ!!!!」

「えぇっ!!?」

突然吹き出し、ゲラゲラと笑いだした西谷に影山は唖然とその場に立ち尽くす。わりぃわりぃといいつつも止まることのない笑いに、影山は一層あからさまに眉間にシワをよせた。


「も、いっすよ。
お邪魔してすいませんした__」

「まぁまぁ、待てよ若いの!!
そっかおめぇ何者か知らなかったが、みたらしも知らねーとこで育ってきたんだな?
可哀想にーっ」

「!!?そ、そんな可哀想って...!!」

「あーもー気張んな気張んな。
アメリカンジョークってな!!」

「.....俺日本人す。」

「くはっ!!う、うんうん!!わかってんよ、よぅくわかってんよ!!!」

ひらひらと手を降りながら涙を拭うその姿にむすりと口を尖らす彼の背中をバシバシ叩いてやる。

つまり、影山はみたらしはなんたるかを知りたいのだろう。
これから入ってくる可愛い新人だ。
ここは出番だと西谷は気を引き閉める。

「いいかー影山。
まず、田中から団子貰ってこい。」

「?
さっきの白い丸いやつッスか?」

「そうそうそれ!田中に茹でてもらったやつなっ
あっついから気をつけろよ?」

「...ッス。」

言いながら頭を下げて田中へと交渉しにいく背中を見届けながら、
西谷は再び鍋へと視線を戻した。
木べらでもう一度大きくみたらしを掻き回すと、香ばしい甘い醤油の臭いが弾け飛ぶ。

うん。問題ねぇ。

この出来上がりであればきっと彼は始めてのみたらしに感動してくれるであろう。

ほどなくして小皿を片手に帰ってきた影山に西谷は胸を高鳴らせた。

さて、この仏頂面はどのような顔をみせてくれるのかな。

「まず、団子だけかじってみな?
翔陽との話聞いてた分、お前団子も知らねーそうじゃねぇか。」

「はい。こんな白いの、生まれて始めて見ました。」

「結構結構。ひとまず一口食ってみろ。話はそれからだ。」

促されるまま影山は小皿に移された白玉を1つ口に運んでいき、前歯で軽くかじる。

もちもちとした食感は始めてで、つい口のなかで何度も噛み締めてしまう。
しかし

言っていいものか悪いものなのか、影山が顰めっ面をして首を傾げると、西谷が再びふっと吹き出した。

「素直に言えよ。
味、あんまねーだろ?」

「!!!
は、はい。なんか握り飯より薄い味付けっつか...なんかもの足りねー...です。」

「んーじゃあ、一回それ貸してみろ。」

「??」

ん、と言う感じで小皿を突き出す影山の手から団子を受け取ると、その中へたっぷりとみたらしをかけてやる。
トロリと透き通る液体に感動してか、影山はキラキラと瞳を輝かせて、西谷の動作を始終眺めていた。

熱くない程度に冷ましてから小皿を返すと、彼は今度はなんとも言えない表情をする。

どうした?速く食え、と促せば頑なに首を横に降るのだ。
どうしてだと理由を聞けば、影山は憤慨したように大声で叫んだ。



「こんな綺麗なもん、もったいなくて食えません!!!」
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