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「お!帰ってきたかー
ってお前どした!!?
何か目赤くねぇか?」
「うるせぇ。ボゲ。」
「え、
なぁ、そろそろ不安なってきたからいうけど俺、名前ボゲじゃないからな?
日向だからな?」
さすがのボゲ連発に日向も不安になってきたのか、影山へと訴えかけるように顔を除き混む。
しかし、そんな努力もむなしく、彼はふいと顔を背けるや否や、慌て始める小さなオレンジの頭の横を無言で通り過ぎていってしまった。
むぅ、と頬を膨らませながらも、日向はその細身の後ろ姿へと続く。
「そういやどうだった?
のやっさんのみたらし。
お前突然見に行きたいっていうからよー。なんなのかと思って。」
頭の後ろで手を組みながら、彼はふと思った疑問を口にした。
結局菅原の圧勝で、団子丸め大会が終わった後、とてとてと作業に戻る西谷の姿を見ながら影山は意味深に呟いたのだ。
あの透明の茶色の。どうやって作るのかみたい。
と。
「...魔法みてーな手だな。
あんなの人間が作れると思わなかった。」
「なー!!すげーよな!!
俺も作ってみようとしたんだけど、まだ無理だった!!!」
「お前には一生無理だろ。ボゲ」
「あ、またボゲ言った。
じゃなくて!!
何でんなこと言うんだよ!!
特訓すれば俺にだって出来る!!絶対出来る!!!」
ふぬぐぐと力強く拳を握り締めるその姿に、影山はぼそりと言葉を漏らした。
「あったけー味がした。」
「え?」
「あれは、その味を知ってる人にしか出来ねーよ。
多分。」
「....影山?」
呼ばれて、は、と頭を上げれば心配そうな茶色の瞳とかち合う。
何でもねーよ、ボゲ。といい募れば、あ!またボゲっつった!
こんにゃろーと分かりやすく怒りを露にする。
その顔のバカさ加減に鼻で笑いながら自分よりかいくぶん低い頭をはたいてやれば、調子にのんなと喚かれた。
普通の馬鹿みたいな喧嘩。
互いをののしり合う、些細な喧嘩だ。
そんな当たり前のような日常さえ、今の影山には新鮮に感じ取れる。
___こんな平穏な日々が今まであっただろうか?
まだ浸かったことがないぬるま湯の中の感覚に、影山は平常心を保ちつつも訳がわからなくなっていた。
自分の居場所はここではない。
わかっているのに、菅原の言葉にすがってしまっている自分がいる。
心の傷など、もうとっくに治せないほど深く心臓をえぐっていたはずだ。
それを癒そうなどと、自分は何を求めているというのか。
からすの団子屋に来て、まだ初日。
それなのにどうしようもなく疼くこの痛みはなんなのだ....??
痛み続ける胸のわだかまりをぎゅっと握り締めると、
ふと、何者かに肩を叩かれた。
呼ばれるようにして顔を上げれば、慌てたような菅原の顔がぼやけた視界の中心にうつりこむ。
どうやらまた考え事をして、回りが見えなくなっていたようであった。
今日は非常にそれが多い。
デジャブを感じながらも、なんですかとごく冷静に菅原に返事を返すと、はーびびったと彼は細く息を吐き出した。
それに軽く首を傾げて応答すれば、
菅原はあやすように影山へと言葉を連ねる。
「今からな、音駒病院のやつらんとこいって、日向に出前の配達をしてもらうんだけど
今回はお前も行ってこい。」
「音駒病院?」
「お前の傷、無料で治してくれた医者のとこ。
ちゃーんと礼いって、元気な姿見せてくんだぞ?」
びくりと彼のがたいの良い肩が上下に揺れる。
あからさまに動揺した影山に、菅原はふは、と笑みを溢した。
大丈夫だ、いい人だからと言い聞かせてやれば、はぁ、と不安げに言葉を漏らす。
その腕を、日向が意気揚々とつかんで引きずった。
「おおっじゃあ決まりなっ
菅原さーんいってきまーす!!!」
「え、ちょ、まてお前___」
「いってらっしゃーい!!
気を付けて〜っ」
優雅に手を降る彼に見送られながら、どこからそんな力が出てくるのかというスピードで走りまくる日向へと影山はつんのめりながらついていく。
足がもげそうなほどに高速だ。
まともに呼吸もできやしない。
しかし、目の横を流れていく景色が余りにも新鮮で、活発で、生き生きとしていて。
影山は気が付けば自らの足で、日向の横へと並ぶように走っていた。
お?という顔をする日向の腕を引き剥がすと、彼の前へと進むように助走をつける。
こちとらやる気を出せばお前よりも速く走れるのだ。
見せつけてやろうと意気込んでいた拍子に特徴的なオレンジ頭が横に並んできた。
驚きに目を見開けば、してやったりといいたげな笑顔がこちらを除き混んでいる。
「競争か!挑むところだ!
速さなら負けねーよ影山!!!」
「こっちこそ...!!!俺の足をなめんじゃねー!!」
病み上がりということをすっかり忘れつつ、日向と影山はがむしゃらに互いを威嚇しながら目的地へと歩みを進めた。
この時、楽しそうに笑っていた影山の表情を、日向はまだ知らない。