short
□alone again naturally
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*ポッター家襲撃から二年後
「・・・教授!スネイプ教授ってば!」
ああ、またあの声だ。
そのまま聞こえないふりをして立ち去ることもできたがどんなに足早に歩いても彼女の声はずっと追いかけてくる。
自分のお人好しさ(とスネイプは思っている)にうんざりしながら振り返ると、金色の髪を靡かせながら一人の少女が駆け寄ってきた。
「やっと捕まえた!」
隣にくるなり腕に手を通され、注意しようと開かれたスネイプの口も思わず塞がってしまう。
その手を振り払おうとしてもその度に少女とは思えない強さでしがみついてくる。おまけに「私に恥をかかせたら承知しないんだから」と言葉にせずとも満面の笑みで訴えかけてくるのだ。
スネイプは今学期何度目か分からないため息をついた。
これが少女たちの戯れであることを彼はなんとなく察していた。前学期まで全くといっていいほど彼の授業に興味をしめさなかった彼女がまるで発情した猫のように接触してくるのにはそれなりの理由があるはずだ。しかも、彼女の友人だと思われる少女たちが背後でクスクスと笑っているのをスネイプは何度か目撃していた。
彼女は学生時代のスネイプが最も苦手としたタイプの女子だった。
学校のカースト制度で言えば上位に君臨し、自分の美貌を武器に平気で人を利用し、傷つける。
現にスネイプもかつて彼女に似た少女たちの戯れの対象にされたことがあった。言うなれば、あの悪戯仕掛人と名乗る愚か者どもの女バージョンといったところだろうか。
それはスネイプが大人になり、魔法薬学の教授となった今も変わらないらしい。
普段のスネイプなら否応なしに少女を校長に突き出し、ついでに書き取りの罰則を言い渡すだろう。相手がグリフィンドール生なら尚更だ。
しかしスネイプには彼女をないがしろにできない理由があった。
彼女の目だ。鮮やかなグリーンで、リリーを思い出させるそれはスネイプを大いに苦しめた。
それを知ってかしらずか、彼女はリリーがスネイプに一度もしてくれなかったことをする。
その瞳でスネイプだけを見つめ、耳元で好きだと囁いてくれる。恋人のように腕に抱きつき、隣で笑ってくれる。
それが嘘だとは充分承知だ。それでも自分だけを見つめてくれるその瞳が、これほど嬉しいものだとは思ったこともなかった。
数ヶ月経って、少女たちの戯れは突然終わりを告げた。
廊下ですれ違っても、彼女が前のように気安く声をかけてくることはなくなった。
まるで何事もなかったかのように普段の生活に戻って行った彼女の後ろ姿は、まるでリリーのようだった。
スネイプが生徒に対して頑なまでに冷酷になったのはそれからだ。
今ではもう彼女の顔を思い出すことはできないが、その瞳だけはいつまでも脳裏に焼き付いていた。
→あとがき