short

□monster
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*霧島殺害後

「・・・さて。これをどうするものかな」
地面に横たわる霧島純平の亡骸を見下ろしながら高遠はぽつりと呟いた。
空はすでに白みはじめている。あと数時間もすれば学校は教師や生徒で一杯になるだろう。
それまでに彼の体を片付けなければ。

「首を切り落とせば?」

突然背後で聞こえた女の声。
はっと振り返るとそこには背の高い、ぞっとするほど綺麗な女がいた。年は高遠と同じくらいにも百歳くらいにも見える。黒髪で、猫のような目をしている。
「首を切ってファイヤーストームの中に放り込めば死神マジシャンの仕業だと思われるんじゃない?多少の疑いは向けられるかもだけどあなたは賢いからどうとでも言い訳できるわ」
身構える高遠を気にした様子もなく女は淡々とそう言った。そして霧島の死体を見て嬉しそうに口元を綻ばせる。

「・・・どなたですか」しゃがみ込み霧島の頬を優しく撫でる女に向かって高遠は警戒心を露に尋ねた。女は肩をすくめた。
「私は『狂気』。概念なのよ。目には見えないけど必ずそこにあるもの」
「・・・狂気?」
「そう」
あなたの頭の中にいたのよ、ずっと。
女は振り返ってにっこりと笑った。その笑みを見てなんとなく彼は鏡を見ているような気持ちになった。

「あなたは狂気と死の化身のような子よ、ダーリン」
さっきまで目の前にいたはずなのに。彼女は高遠を背後から抱きしめ、耳元でそう囁いた。

「私がいれば、あなたは無敵よ」


そう言って差し出されたのはノコギリだ。霧島が藤枝や黒江の首を落としたのに使われたものだろう。刃にはまだ乾ききっていない赤黒い血がたっぷりとついていた。

「あなたは・・・」

後ろを振り返るが既に女の姿は消えていた。

(僕の頭がおかしくなったのか?)

そんなことを考えながらも高遠は依然横たわったままの霧島の亡骸に向き合った。

ゆっくりと、ゆっくりと彼は首にノコギリの歯を当てていく。

『あなたなら余裕でしょう?ダーリン』

「・・・別に、普通だよ」

頭の中で囁きかけてくる狂気の声に向かって高遠は先ほど霧島に言ったのと同じ言葉を繰り返した。

→あとがき
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