NARUTO1

□怖くないよって頭を撫でて
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部屋いっぱいに並べられた傀儡にあたしはわぁと声を上げた。隣であたしと手を繋いでいるデイダラは相変わらず薄暗い部屋だなと呟く。前を歩くサソリの後について、あたしは壁や床など隅々にある人形たちを見渡した。

「これ全部サソリが作ったの?」

「ああ」

赤い髪をした姿のサソリではなく、ヒルコの彼が返事を返す。並ぶ傀儡の中にはまだ未完成の形をした物もあれば、まるで人間のような物もあった。

「名前とか付いてるの?」

「…さぁな」

へぇと呟いたあたしに、子供らしい質問だなとデイダラがケラケラと笑う。

「笑わないでー、あたしまだ子供だもん」

繋いでいた手をブンブンと振り回すと、膨れるあたしをなだめるようにデイダラが微笑んだ。

「無いならあたしが名前つけてあげよう。…アレがレイナで、あそこにいるのがナツミ、その隣はマモルかなぁ」

もー、沢山過ぎて付けきれない!そう笑ったあたしに、サソリは一番奥にある大きな傀儡を指差した。彼の人差し指の先にあったのは黒い髪の男の人形。それは、ここにあるすべての傀儡の王様みたいに凄まじい存在感があった。

「…わ、」

立ち止まるあたしの隣をすり抜けようとしたデイダラ。彼が傀儡の方へ行こうと繋いだままのあたしの手を引っ張るものだから、パッとその手を離してしまう。ふと不思議そうにこちらを見た彼だったが、特に気にする様子もなく傀儡に近寄りまじまじとそれを見てる。

「なんでそんなとこにいんだ。もっとこっち来いよ、うん」

「やだ。ここでいい」

デイダラの言葉に頭を振る。キリッと吊り上がった目元と重く垂れ下がった口元に、あたしは駆け上がってくる何かを感じた。何故か他のと比べてこの傀儡だけとても生々しく艶やかに見える。

「三代目風影だ、うん」

「……へー」

口から返事は出たものの、風影って何?そう思ったがあえて聞かなかった。この傀儡の良さは、子供のあたしにはまだよく分からないし、他の壁に吊ってある傀儡達との違いも分からない。でも、並々ならぬ思いが込められていることはなんとなく分かった。

「ふぅん、イケメンだねぇ」

「…イケメン?見るとこおかしいぞ」

あたしの言葉にデイダラが顔を歪めたが、今言える事で思いつく言葉といえばこれぐらいしかない。黒い布に覆われたそれを黙って見ていたあたしに、デイダラは言う。

「これ、生身の人間から出来てんだぜ」

「…え?」

先程のデイダラよりも引きつったのはあたしの顔。その顔のまま、一昨日やってた幽霊のテレビ番組より怖い事だとサソリを見た。

「まだ未完成の作品だが、仕上がれば最高傑作になる」

「……」

彼の力のこもったその一言にあたしはゾクッと背筋を強張らせ、こちらをじっと見つめているその傀儡から目を逸らした。


……


「怖かった…」

サソリの傀儡部屋から出たあたしは、両腕をさすって背中を震わせた。サソリは好きだけどあの傀儡は嫌い!サソリが隣に居ないのをいい事に、そう言ったあたしにデイダラは笑う。

「な、言ったろ。オイラの芸術の方が良いって」

「芸術って花火粘土のこと?」

「…あのなぁ……」

溜息をついて頭を抱えた彼だったが、直ぐに顔を上げてそうだなとだけ言った。

「まぁ、××も大人になればオイラの芸術も旦那のアレも理解できるようになると思う。うん」

あたしの頭をポンと叩いたデイダラに、むむむと眉をひそめた。難しい事はあまり分からないけれど、なんだかそれは納得ができない。

「うぅん…。あたしがまだ子供だから、あれは怖く見えるのかなぁ…」

「きっとそうだろ」

「そうなのかなぁ…」

悩むような仕草をしたあたしの髪を、梳くようにして撫でたデイダラはもう切り替えスイッチを押したような清々しい顔であたしに言う。

「ま、そのうち分かる」

「…うん」

「でな、オイラは旦那と任務があるから、今日はお前はアジトに居ろよ」

突然突きつけられたその言葉に、あたしの口は大きく開く。

「えぇ…なんで?またぁ?」

「おう。終われば直ぐに帰る」

「そうかもだけど、…でも今日は飛段とかも居ないんだよ?」

「ああ、知ってる」

「…うーん。もー、別に良いけどさぁ、…でも、前みたいに1週間いないとかやめてね…」

唇を尖らせてそう言うと、お土産は何が良いって彼は笑った。

「いらない…。早く帰って来てくれればそれでいいもん…」

「よっしゃ。大人になったな!うん!」

あたしの髪をクシャクシャってしたデイダラは、にっこり笑ってじゃあなとだけ言った。

バイバイと手を振って、その背中を見送っていたあたしの隣をヒルコのサソリが横切った。後ろに人の気配なんて全く感じ無かったので、あたしの肩はビクリと跳ねたが、直ぐにサソリにも声を掛ける。

「サソリ、さみしいから早く帰ってきてね…」

「ああ」

歩みを止めない彼をあたしは少し駆け足で追う。

「…が、頑張ってね!!」

一層大きな声が出た。彼は足を止めることも返事をすることもしなかったが、ヒルコの尾が足に擦り寄ってくる猫のようにあたしに巻き付き、そして離れていった。

「バイバイ……」

小さく呟いたあたしは、遠くなっていく二人の背中をぼうっと見つめていた。


……


彼等が発ってからどれぐらい経っただろうか、デイダラの部屋で一人、粘土遊びをするあたしの元へお客さんが来た。

「やっほーー!××さん、来ちゃいましたよー!」

扉をノックせずに入ってきたのは、オレンジのお面をしたあの人。その明るい声に、あたしの顔もパッと晴れた。

「わーーー、グルグルのトビーーー!」

自分には少し高いデイダラの椅子から飛び降りて、あたしは彼の元へ走った。バッと飛びつけば、彼は笑いながらあたしを受け止めてくれる。

「デイダラ先輩に一人だって聞いたんで、遊びに来ました」

「トビ好きーー!」

頭をグリグリと彼の胸へ押し付ければ、トビは一層きつくあたしを抱き締めて言う。

「やっぱ子供は可愛いですねぇ」

その言葉に眉をひそめたあたしはトビの頬へ軽く張り手をする。いや、頬というよりお面か。

「もー、あたし一人でお留守番できるから子供って言わないでー」

「あはは、先輩と違って全然痛くないっス」

ヘラヘラと笑った彼の手を引いて、あたしは先程まで熱中していた粘土達の元へトビを連れて来る。
机の上に並んだ数々の粘土に指をさし、一つ一つ説明をした。

「これがデイダラ、これがサソリ」

「へぇ、上手っスね」

「そんでイタチ、サスケ」

「…ん?なんでサスケ君が居るんですか?」

「兄弟は仲良くしないとダメだから」

そう言うと、トビは黙ってあたしの頭に手を置いた。あたしはチラリと彼の方を見たが、表情がよく分からないので粘土へ視線を戻す。

「…仲良くっスか」

「そう。で、これが飛段と角都。んで後はペイン達も作らなきゃ」

どうしようかなぁと粘土の塊へ目をやったあたしに、トビがふと尋ねてくる。

「粘土が好きって事は、××さんはデイダラ先輩側なんスか?」

「え?だってあたし傀儡とか作れないし」

「あぁ、そうかぁ」

ふぅんと頷いたトビを見て、あたしは思い出したように、あ!と声を上げた。

「それよりもさ、あたし隠れんぼがしたいの!」

「え?ここで?」

「そう!じゃあトビが鬼ね!10数えて!」

「いや、でももうすぐ先輩達帰って……」

「はやくねーー!」

それだけ言ってあたしはデイダラの部屋を笑顔で飛び出た。粘土も良いけど、そればっかりではさすがに飽きる。あたしは体をうごかしたかったの。待ってって叫んだトビの言葉も無視して、アジトの廊下を全速力で駆け抜ける。

そういえば、もうここに来て結構経ったけど、あたしにはまだまだ全然知らない場所がある。角都の部屋にある金庫も飛段がいつもお祈りしてる場所とかも見たことない。ということで、みんながいない今のうちに入ってやる。なんで勝手に入ったんだって言われたら隠れんぼだからって言えばいい。
ニヤニヤと笑ったあたしは、ひとまず角都の部屋へ突っ走る。その瞬間、ふと横切ったのは先程入ったばかりの傀儡の部屋。

「……あ」

そこへ行くつもりなんて微塵もなかったが、なせが目の前で立ち止まってしまった。ドアを見つめながらこの奥にあの傀儡がって思うと、あたしはゾクッと体を震わせる。

「10数えましたよー!今から探しますからねー!」

「わ、わ、やばい」

トビの声に驚き、咄嗟に飛び込んでしまった傀儡の部屋。パタンとドアを閉めると、中はとても薄暗かった。

「や、やだ…怖い…」

変なものを見ないように薄眼で前を見る。電気は無いのかと辺りを見渡すがなかなか見当たらない。

「こわ、……あっ」

ついに恐れていたあの傀儡と目があった。あたしが入ってきたことを咎めるように、遠くにあるくせに傀儡はじっとりとあたしを見てる。

「……む、向こうむいてっ」

真正面を向いている傀儡へ向かって手をバッと右に差し出すが、彼はまっすぐこっちを見たまま。その様子に悲鳴を上げた震えるあたしはふと恐ろしい事に気付いてしまった。幸か不幸か、電気のスイッチがあの傀儡のすぐそばにあるということに。

「…ひぇええ」

あの傀儡は怖いけど、薄暗いのはもっと怖い。そう思った瞬間、周りに吊り下がる人形や横に並ぶ人形すらもこちらを見ているような気がした。
あたしは半泣きになり、ヒィヒィ言いながらすり足で傀儡から目を離さずに電気の側へ寄る。

「………」

「……怒らないでね」

「…電気つけるだけだからね」

襲い掛かって来ないように声をかけながら、なんとかさっきこの部屋へ入った時よりも傀儡の近くに来た。近くで見るそれは、遠くで見るよりも数倍威圧感があって、あたしはゴクリと生唾を飲む。傀儡の隣に並び、電気のスイッチに手を伸ばすがまさかの届かない。

「…あれ、遠い…っ」

背筋を伸ばして爪先立ちになってもギリギリ届かない。首を伸ばして腕をグッと上げた時、あたしの体はふらっとぐらつく。そのせいでドンと隣に居た傀儡にぶつかり、あたしはビクッと体を揺らした。恐る恐る彼の方へ目をやるが、良かった、こっちはみていない。

「………ごめんなさい」

あたしは小さくそう呟いてから、もう一度電気へ手を伸ばす。やっぱり届かない。これは一か八かジャンプするしかない、そう思ったあたしは一旦床に足をピタリと付けた。そして、深く息を吸い膝を折り曲げ、スイッチの位置を確認し、思いっきり飛び跳ねた。カチッ。確かに音がなった。

「わあ!やった!」

スイッチに触れた感触に喜んで床へ着地した時、足元にあった何かに引っかかりあたしは盛大に転んだ。受け身を取る暇もなくゴンと頭を床に打ち付け、あまりの痛さに驚き直ぐに後頭部へ手をやった。
何に引っかかったんだと目を開けた時、目の前にいたのはあの傀儡。暗い部屋で間近に見るそれは今まで見た何よりも怖かった。

「痛いなぁ!!」

太い声でそう言われた気がした。

「ぎゃあああああああ!!!」

喉がかっ切れるぐらい叫んで、あたしは大声で泣いて暴れた。するとドアがぶち破れるぐらい凄まじい勢いで開いて、部屋へ飛び込んできたのはデイダラ。

「××!!」

名前を呼ぶなり、こちらへ走ってきた彼はあたしをふわっと抱っこしてくれた。どうしたんだって聞いてくる彼の首筋にぎゅっと抱きつく。

「うわぁぁっ」

怖くて痛くて安心して、涙がたくさん溢れた。もう大丈夫だからなって、彼があたしをきつく抱きしめるから、もう涙を止めることさえ出来なかった。

「何事っスか!?」

焦ったように飛び込んできたトビが、ドアのすぐそばにあったスイッチに触れパチンと部屋の電気を付けた。明るくなった部屋にあたしは今日一番驚く。目を丸くしながら、先程まであたしが必死に格闘していた元凶のあのスイッチは一体何だったんだとボタンの方へ目をやった。
そこには小さな文字で、換気。とだけ書いてある。
それを見たあたしは、もっともっと泣いた。


……


「…反省してます」

デイダラの部屋で正座をしたあたしは、目の前にいるヒルコで無い赤髪のサソリに深々と頭を下げていた。

「ま、…まぁいいだろ、な!旦那!どこも壊れて無かったし、うん!」

隣に居たデイダラがあたしを慰めるようにサソリに笑う。頭を上げて彼を見上げると、無表情のサソリがそこに居てあたしはまた泣き出しそうになった。

「…ごめんなさい」

顔を強張らせながら、あたしは彼に謝った。すると、何も言わずパッと手を挙げたサソリ。あたしは叩かれるとギュッと目を閉じた。

「ごめんな」

そう言って、ポンと頭に置かれたその手にあたしは心底驚いた。恐る恐る顔を持ち上げると、相変わらず無表情の彼がそこに居る。

「怖かったろ。もっと可愛く作ればよかったな」

頬を伝っていた涙を指で拭ってくれた彼にあたしは大きく頭を振った。

「……ううん…、サソリが作ったんだもん、もう怖くないよ…」

そう言うと、彼は微かに笑ってまたあたしの頭を撫でた。


2014.10.31

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