野球ファンである私がサッカーファンになった理由

□One
1ページ/3ページ











野球のグラウンドはダイヤ。
サッカーは長方形。

野球は9人で、サッカーは11人。

野球は九回裏までが原則だが、基本的には時間に制限はない。
サッカーは前後半合わせて90分。ロスタイムを入れれば多少は長引いたりもするが、基本は90分。

野球は攻めのとき、バッターボックスにチームの一人が入り、ダイヤの線に沿って人が配置されているのは敵方の守り。
自分が打ったボールが帰ってくるまでの間にベースを踏んで得点を重ねる。

サッカーは、1つのフィールドにオフェンスとディフェンスがいて、二つのチームがまぜこぜになり、ゴールの下に引かれているエンドラインをボールが越したら得点に繋がる。


こんな感じで、野球とサッカーは全く違う。
だが、惹かれてしまった。
サッカーの魅力すべてを。




「ファイアトルネード!!」



「ゴッドハンド!!」



こちらの方にまで熱波が来るようなビリビリする必殺技。
思わず感嘆の声を漏らす。

「スゴいなぁ。サッカーって、こんなに熱いのか〜。」

野球には野球の良さが、サッカーにはサッカーの良さがあり、そこをまた比較するのがたのしい。

「ん?あ、木野先輩。あそこにいる人、確か木野先輩の同級生ですよね?偏差値70越えの超天才!」

サッカー部の魅力に惹き付けられ、新聞部からサッカー部のマネージャーに転任した1年の音無が木野に話しかける。

「あぁ、山田さんね。彼女、容姿端麗で頭が良いのに、たまにオッチョコチョイだから、彼女を知らない人はみんな煙たがってるけど、とてもかわいい人よ。」

「でも、なぜオカルト研究部なんか入ってるの?あんな変な空気の部室、サッカー部より入りにくいわ。」

理事長の娘である雷門夏未がそう言う。

「それは、山田先輩だからです!よく言うじゃないですか。頭のいい人ほど変人が多いって。先輩はまさにそのタイプじゃないですか?」

音無がそう言うと、マネージャー3人がこちらを見てきた。
その視線に気付いた私はすぐに立ち去った。

オカルト研究部に所属する私だが、どちらかというと野球が好きで、部活の合間に野球部に混じって甲子園の真似事をしたりする。

だが、そこそこ運動音痴なので、おせいじでも上手とはあまり言えない。

オカルト研究部の部員である以上、オカルトの知識は豊富だ。
もちろん、オカルトが好きだからである。

なぜ好きかって?


神秘的なものを感じるからだよ♪

「あ、山田さんが帰ってきた。」

「君!また部活を脱け出して野球の真似事をしていたのか?」

「違います!今日はサッカーを見ていたんです。」

「どっちもおんなじだろうが!」

その言葉にイラついて、私は深呼吸した。


「良いですか?野球とサッカーはゲームの方式も人数も、全て違います!あなたが今言ったことは、天使と悪魔は一緒だと言っているようなものです!」

「そんな真面目に答えなくてもいいじゃんか。とにかく、オカルト研究部員である以上、抜け駆けはしないでくれよ。それがダメならやめちまえ。」

私は腹立たしげにいつものところに座る。

・・・・・・・
いつものところ…とは、部室のまん中の床に魔方陣が書いてあって、そこの回りをとり囲うかのように私たち部員が座って、いつものように呪文を言うのだ。

聖書をもった部長が唱えるので、それを復唱するのだ。

まるでどこかの宗教団体のようだ。

それが不気味なのか、普通の人はオカルト研究部に入ろうとしない。
てか、入りたがらない。
一言で言うならば、“キモイ”から。

それが一段落すると、オカルトの話に入る。

「やはり大天使ミカエルは美しい!みたまえ、この神々しい絵画を。」

私はそれを見て身体をまえのめりにする。

「へぇ〜。ステキですね。高かったでしょう?」

「もちろん、安くはないね。軽く200万といったところでしょうか。」

自慢気に話す部員。
私はあまりミカエルは好きじゃないのだが。

「ふん!ミカエルなんてとんでもない。兄弟であるルシファーが堕天使になったから美しく讃えられるだけだ。ルシファーがいれば、天界のアナスはもっと聖なるものになったろうに…」

部員がそう言うと私はうなずく。

「そうですよね。ルシファーは堕天使になり、その後魔界を創った大いなる支配者ですもの。とても素晴らしい悪魔だわ。」

と、言っておけば何とかなるのだ。
ルシファーもミカエルも、あまり好きじゃないけど。

「じゃあ、山田さんはルシファーが好きなんですか?」

「それは違います。あくまでルシファーとミカエルを天秤に掛けたら…の話。私はやはり、オリュンポス十二神の主神、ゼウスかしら。」

「あれはもうまさに神と言えるべき存在だよね。人間の思う神とは基本的に彼だしね。」

その通り。
基本的に私たちの言っている“神”とは、大体ゼウスだ。
全知全能、この世の支配、全てを兼ね備えている。

あ、でも、日本人は違うかも。
雲に乗った叔父さんから、後光が差し掛かってるとか、そんな感じだと思うけど。


「そう言えば、サッカー部が今出ているフットボールフロンティアの出場校に、そんなような名前あった気がするなぁ。」

私はその言葉に反応する。

「フットボールフロンティア…?」

「知らないんですか?中学サッカー界のトップを決める大きな大会ですよ。その出場校に…あ、あった。これ、これ。」

部員はスマホで調べたフットボールフロンティアのHPを開いて私に見せてくれた。
そこに書いてあった出場校一覧に、“世宇子中学校”と書いてあった。

「わぁ…ステキな名前…。」

「でも、名前の割りには結構ひどいらしいよ。相手をサッカーでボコボコにして、大量得点差で勝利してる。最悪だよ?」

でも、名前に惹かれた。
こんな神秘的な学校があるなんて…。

と、気まぐれに思っている私であった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ