FlOWER

□空色ドロップ
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「──おい、しょ……!ふぅ…やっとここまで来れたわ…」

先程、ディアンヌから喧嘩祭りが行われる場所を教えてもらい別れたあと、よほど盛り上がる祭りなのか観客のボルテージが一気に上がり、更に人混みが増した中をなんとか抜けてやっとのことで喧嘩祭りが見える場所までやって来れた。

ふぅ、と息をついて額の汗を拭いながらどれどれと視線を上げてぎょっとする。









「(───き、キング!?…それにさっきのおじいさん!?)」

更にぎょっと目を見開くも目の前でなんとも弱々しい喧嘩?を繰り広げるのは、間違いない。
──怠惰の罪、グリズリー・シン。あの、妖精王のキングだ。
それと…酔っぱらいのおじいさん。




な、なんでキングがこんな所に…!?

…とゆうか。キングの喧嘩の弱さって確か壊滅的じゃ──








「ちょいさあああああっ!!」
「ぐふっ!?」

あ。

ドカッと鈍い音がしたかと思えば、え、という顔をしたキングは思い切り場外へ吹き飛ばされてしまった。


……あっさりだわ。あっさりしすぎよキング。魔力を使えば彼はとても強すぎるぐらいに強いのに…相変わらずなのね、拳の弱さ。

はぁ、とため息をついて思わず片手で額を押さえた。

『おっさん場外!!』というアナウンスが聞こえて、おっさんて何っ…!と思わず笑ってしまったのは認める。

──ふふっ…きっと七人の誰かだわ。

『皆と合流しよう!!』ふとディアンヌが言っていた言葉を思い出して、もしかしたらディアンヌやキング、団長以外にも共に行動する仲間がいるのではないかと期待を抱いた。

「…勝者ケイン───!!」

「あ…それにしても、おじいさん強かったのね。彼が弱かっただけかもしれないけど──…」

先程の弱々しい喧嘩を思い出せば笑ってしまうのをこらえ、盛り上がる周りの観客と一緒にケインというおじいさんへ拍手を送った。



──キング大丈夫かしら殴られた傷…

魔力的には本当に強いけど、彼、物理的なもろにくらうダメージには昔から人一倍弱いから…。

それにしても、ディアンヌの出番はもう終わったのかしら…?










────ぐいっ!!


「──っ、ンン…!?」

───突然。

力任せに背後から引き寄せられ、抵抗する間もなく男であろう傷が多い大きな手で口を塞がれた。

周囲からはきっとかなり密着しているようにしか見えない体勢を、背後の人間は上手くつくっている。

「(──っ、誰…?!)」

なんとか声を発したいと抗い大きな手をはがそうとするも、相手の力が強すぎて上手くいかない。

「っ……!」
びく。

彼は口を塞ぐ手とは反対の手で、私のウェーブがかった髪を一房そっとつかんだ。
背後にいる人間を確認しようと顔を向けようとするが、がっちりとした腕にホールドされているため前を向かされたまま身動きができない。



──そして、彼は言った。


「……やっーぱこの旨そうな桃色、お前しかいねえーな♪」
「っ、バっ…!?」
「シィーっ…!…バアーカ周りにバレるっつの♪黙れよミサ♪」
「(…あなたのせいよ!驚いたんだから!)」
「そう睨むなって♪………つーか。やっぱお前キレーだな、相変わらず♪」

そうニヤリと悪く笑みをこぼした彼は、つかんでいた私の髪を意外にも優しい手つきで少しだけ上げるとこめかみを晒した。

「(………?)」

ふとその行動の意図がわからず眉を寄せる。






……もしかして…いや、昔のことだし今さらやるわけ…ない、はず。

昔、"俺なりの挨拶だ♪"と言ってからかうように毎日されていたことを瞬時に思い出した。

そして。
大きな手に容易くもするりと顎を掴まれ、しまったと意識が現実へ引き戻された。



グイッ

「っ、やめ、」




──チュ。


いつの間にか口は解放されていた為、やめるよう言葉を発しようとしたが時すでに遅し。晒されたこめかみに柔らかく、少しかさついた感触がした。

ん、と思わず声がもれて、くすぐったさに肩をすぼめた。バンはそれを見て満足そうに喉を鳴らして笑った。

そして、これ以上からかわれるのはごめんだと必死に身をよじるも、少しだけホールドしていた力を緩めながら彼は昔と変わらない妖しい笑みを浮かべ私の反応を見て楽しんでいた。




────強欲の罪、フォックス・シン…不死身のバン────。

はぁ、とため息をついて彼の胸を押し返して向き合う。

「そう怒るなって〜ミサ♪会いたかったぜえ?お前には♪」
「…はぁ。相変わらずね、バン。…それにしても、冗談がすぎるわ!驚いたんだからっ」
「あー?悪かったって♪だからそんな怒んなー♪キレーな顔が台無しだぜ?」

ピキ。

「(…あなたがこうしてるのよ?まだそうやってからかうのかしら?ばかバン)」

そうね、と怒りに満ちた心を落ち着かせるべく、ぐっとこらえながらバンに作り笑いを向けた。

自分でも相当怒りのボルテージが上がっていることがわかり、久しぶりにこめかみに青筋を立て、反省の色が全く見えない彼に呆れては人混みにも関わらず冗談がすぎるわと説教をした。

……まあ、彼が真面目に聞くはずもないけど。

でももしかしたら、あそこで口を塞がれてなければ危うく大きな声で彼の名を呼ぶところだったわ…。危ない。

「…バン。元気だった?」
「おーまあーな♪変わんねーな、昔っから♪──…だんちょもな♪」
「そっか…。良かった、また会えて。ま、からかわれたのはさすがにむかついたけどね?」
「まあまあもー忘れろ♪俺らン仲だろ♪…つかだんちょと会ってねーのか?」
「今さっきのこと忘れるわけないじゃない、ばかバン。…うん、まだ会ってないわ」
「ありゃまあ…ま、こんな人混みだしなァ〜……」

会ってないのかと聞かれれば無意識に少しだけ視線を落とした。自分が一番会いたいと願う人に未だに会えない悲しみが今さらながらやってきて、ツキ、と胸を痛めた。








『───なあなあミサっ!』

──…団長の、メリオダスの、まぶしいくらいの笑顔が脳裏に浮かぶ。










しばらくすると突然バンは何を思いついたのか、あ、と声をもらした。

「…………バン?」
「…ンアー?…やっべミサ、俺すっげぇオモシロイこと思いついちまった♪」
「おもしろいこと?」
「そうそう〜〜…♪」











────嫌な、予感。







「…ミサ♪お前も喧嘩祭りに飛び入り参加だ♪こりゃ、だんちょも大喜びだな〜〜〜?」

ガッと腕を掴まれ、米俵のようにバンの肩にヒョイと担がれあっという間に喧嘩祭りギャラリーの注目を浴びる。


「ちょ…!バ、っばか!?やめっ…」
「オラオラ暴れんな〜〜♪ダイジョーブだって♪お前つえーし♪」
「そ、そういう問題じゃないわ!!」
「…ブハッ!お姫様は相変わらずおてんばだな〜〜〜♪」
「────お、下ろしてえええええッ!!」










やっぱりバンなんか……、




大っっっっ嫌いよ────!!!!

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