シンデレラシンドローム
□曇りのないまぶしいキラキラ笑顔
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静かな図書館に小さな通知音が鳴った。
……マナーモードにしておくの忘れてた。
幸いにも居るのは、街でも大きな公共図書館の一番隅にある本棚の一角。私のお気に入りの特等席。
開けられた窓から吹く心地よい風を背に低い本棚に腰を預け、時折真っ白なカーテンが風に舞うのを視界の片隅で見た。
風によってパラパラとページがめくられた本を片手でパタンと閉じて、代わりに側に置いてあったスマホを手にしてLINEを開く。
"黄瀬涼太"
『美冴っちー!髪切ったんっス!どう!?』
二度目の通知音とともに送られてきたのは、新しい髪型になった笑顔がまぶしい幼なじみの彼の自撮写真だった。
それを見ては自然と頬が緩んで、ふふ、と笑いながら、『似合ってるよ』と返した。
……そしてすぐに、彼から三度目の通知音。
『ほんと!?超嬉しいッス!あ、みんな元気ッスよ〜〜早く美冴っちに会いたいって話してたっス!』
そのあとすぐに、
「──!」
今一度、同じチームで仲間として共に戦うことになった彼等───キセキの世代の集合写真が送られてきて、また笑みがこぼれた。
「(……黒子くん、大輝、真ちゃん、むっくん…涼ちゃん)」
──征、ちゃん。
綺麗に笑う、紛れもない昔の彼が、そこに居た。
…よかった。戻れたんだ、ちゃんと。
新たに生まれた二人目の彼はきっと、一人目の真の彼の中で眠っているのだと思う。
ずっと願っていた。二人の彼が、いつかは溶け合って混ざり合って、一人の彼になれることを。
「……もう心配ないね、征ちゃん」
『写真までありがとう、涼ちゃん。大切に保存しておくね。私も会いたい、みんなに』
彼等の一人ひとりの乗り越えてきた過去は、たぶん、壮大なストーリーすぎて全てはわからない。
けど、どれだけの苦難や困難を乗り越えてここまで来れたのかはわかる。
…やっぱり男の子同士っていいよね。
言葉にしなくても、大切なことを伝え合うことが可能だから。
羨ましいなあやっぱり……あ、さつきに連絡入れとかないと……あとリコ監督にも。
「『翌日から合流します』っと………さて、帰国の準備しなきゃ」
スマホの画面を再度確認してからスキニーのポケットに入れ、先程まで読んでいた本を受付のカウンターへと出し、カードを提示して借りる。
「OK」
「Thanks,」
スキャンされたカードを肩に掛けた鞄から取り出した財布へ入れ、差し出された本を受け取った。
親しくなった受付の彼女へカウンターを離れる際、軽い挨拶を交わしてから図書館を後にした。
「───ん、んんー…!」
図書館を出てすぐにぐっと伸びをして、澄みきった青い空を見上げた。
あの日を思い出す。
春とは思えないぐらい、青く青く澄みきった綺麗な青い空の日、私は彼等と出会った。
"────勝利が全てだ"
"百戦百勝"
"今、ここに誓え"
"君が橙堂美冴か"
"ようこそ、帝光中バスケ部一軍へ"
"勝つことは息をすることにすぎない"
"──僕の言うことは絶対だ"
「──ん、よし…!」
彼等と勝利を手にするために、もう一度、キセキと巡り会う。
私と彼等の物語は、まだ始まったばかり。