黒執事(短編集)
□深夜の赤い満月
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――赤は怖い。
少女がそう感じ取ったのは、
今から数年前のことだった。
……深夜。突然の銃声に、
飛び起きるように目を覚ます。
狭い敷地内に入り込み、
数人の男達は汚い声で嗤った。
……それが合図だったのだ。
全てが真っ赤に染まる、
惨劇の合図。
「お父さん、お母さんっ……」
少女は一人、震える足で何とか立ち上がり、長い階段をゆっくりと下りていく。
ようやく辿り着いた
一階のロビーの床では、
既に両親が事切れていた。
「ヒヒッ。まさかこんな簡単にことが進むとは、予想外だったぜ」
「金は手に入れたし、あとはこの嬢ちゃんをどうするか、だよなぁ? どうする、殺しちまうか?」
「いや、生かして売っちまう、って手もあるぜ?」
残酷な会話とともに、
不意に向けられた冷やかな視線。
少女は思わず身震いした。