シンオウ地方を旅する
□旅立ち
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あれは十歳の頃だったか。
確か、彼と初めて出会った。
「キミもいつか旅に出るだろう。その時にこの子を連れておいき。」
母の知り合いだったナナカマド博士がうちに訪れ、そう言って私に一つのボールを渡した。
ボールなんてものの扱い方もよくわかっていなかった私は恐る恐るそのボールの真ん中のボタンを押す。
すると、ポン、という音と共に私の足元に現れる青い小さなポケモン。
「この子はポッチャマというんだ。」
〈よろしく。〉
『…うん、よろしくね。』
〈え…〉
私はポッチャマと呼ばれたポケモンが発したであろう言葉に返事をする。
「!?…キミはこの子が言っていることが分かるのかね…?」
驚いた顔でそう言う博士。
分かりづらいがポッチャマも少し不思議そうな顔をしている。
『分かる、けど。』
それが普通ではないのか。と、問い返したかったが博士の様子からするに、問わなくてもなんとなくは分かってしまう。
…けど、昔この町を訪れた鳥のポケモンとも話せていたし、なんの違和感もなかったから今の今まで普通だとは思っていたのだが。
「ほう…珍しい人もいたものだな。やはりこの子はキミに託して正解だったのかもしれん。」
私の頭を優しくポンポンと撫で笑う博士。
〈キミすごいんだね。〉
『う、うん?ありがとう。』
声が聞こえる。彼の、優しい声。
私だけが聞こえるにはもったいないような声。
聞こえる。
「……ろ」
聞こえる。
「起きろ!!」
『ぎゃあああああ!!』
耳元で大音量で聞こえた声に驚いて飛び起きる。
「ったく…今日からは旅に出るんでしょ?支度しなよ。」
『あ、え、あ…そ、そうだ!旅!!』
そうだ、確か、決めたんだ。
16歳になったら旅に出るって。
で、今日は16歳の誕生日。
「そんなので大丈夫なの?」
『大丈夫だ、問題ない。』
冷たい目で見られて物凄いため息をつかれた気がするが気のせいということにしておこう。
私はベットから出てクローゼットに手をかける。
「ちょっと待って、ボクの前で着替える気?」
『あ、そっか。ほら、海翔(みと)出ておいき。』
「…下でご飯作ってるから何かあったら呼んで。」
『うん、ありがと。』
海翔と呼ばれた青年はまたもやため息をつきながら部屋を出ていった。
『それにしてもうちの子はいい子に育ったもんだ。』
そう、あの青年はあの夢で見たポッチャマ。
と、言ってもいつの間にか自分で特訓をしてエンペルトにまで進化をしているのだが。
『料理洗濯炊事をこなす美青年。ああいうのがモテるんだろうなぁ…。』
父母の仕事が多忙で全国を飛び回ってこの家をよく空けているせいか、いつの間にか不器用で何をしても失敗する私に代わり、擬人化した海翔が家事をするようになっていた。
『よし!できた、っと!』
この日のために買った服と母に貰ったリボンで髪を横でまとめ、姿見の前でクルッと一回転をする。
『我ながら完璧。』