シンオウ地方を旅する

□コトブキシティ
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『海翔…疲れた。』

〈それはこっちのセリフ。さっきからどれだけ野生のポケモン追い払ってると思ってるの。〉

『追い払ってる、っていうかみんな海翔を見た途端に逃げ出してるんだけど。』


海翔の、というかエンペルトの鋭い目つきが怖いからか出会う野生のポケモンには皆逃げられてしまう。
どうにかこうにか図鑑には記録できているが、逃げられてしまってはポケモンを捕まえることはできない。


『折角だしポケモンを捕まえてみたりとかもしたいんだけどな…。やっぱり海翔は仲間とかいらないと思ってる?』


隣で歩く海翔の顔を見上げるが、すぐにプイと顔を逸らされてしまう。
仲間とかそういう話をするといつもクールな海翔が子供のように拗ねた素振りを見せる。
不覚にも可愛いと思ってしまうのが辛い。


〈…別に。ボクはいてもいなくてもなんとも。…ミオはボクだけじゃ不満?〉

『え、えーと…海翔さんだけでも十分強いし、凄く心強いんですが、その、旅ってやっぱり“友情、努力、勝利”が大切なんじゃないかなー…?』

〈回りくどいし少年漫画の読みすぎ。〉


海翔にすっぱりと一刀両断されて、思わず項垂れる。
それに少年漫画の読み過ぎというのも悔しいが事実だ。


『…ほ、欲しいよ!仲間…。ずっとあの家で過ごしてて…近くに年の近い子がいるわけでもなかったからずっと私には海翔しかいなくて…。だから…仲間とか、友達とか…憧れてて…。』


海翔に自分が思ったことをそのままぶつけるが、途中で言葉に詰まってしまう。

すると、俯く私の頬を冷たい手が撫でた。
冷たくて、でも優しくて心地よくて、私のよく知っている手。


「ごめんね。」


思いもよらない言葉に驚き顔をパッと上げる。


ゴッ

『いったぁ!!』

「っ…!!」


勢いよく顔を上げれば、上から覗き込むようにしている海翔と思い切りぶつかってしまうわけで。


「…この空気の中でよくそんな間抜けなことできたね。」

『し、してしまったものは仕方ないと思うよ!』


私が慌てながらそう答えると海翔は1度大きく溜息をつく。
そして少し困ったような、照れたような顔をしながら私の目を見る。


「…やっぱり、ボク過保護過ぎたんだよね。」


自分でも思うところがあったとでもいうようにポツリと言葉を漏らす海翔。


「だって、ミオ危なっかしいし、」

『…ご最もです』

「世間知らずだし、」

『お、お陰様で』

「すぐ人見知りするし、」

『つらい』

「…可愛いし」

『…ん?』


最後の方だけ言葉の勢いを失い、ぼそぼそと話す海翔の方を見ると、バッと目を逸らされる。


「まぁ、実際ボクが親代わりみたいなところあったからね。どうしても心配になっちゃうの。」

『海翔、』


目を逸らしたまま話す彼の名を呼ぶと一瞬だけだが視線がぶつかる。


『ありがとう。』


心配してくれて、隣にいてくれて、相棒だと認めてくれて…、その言葉の前に置きたい言葉が頭の中をぐるぐると回った。
海翔は私が思ったことをそのまま口に出すと目どころか顔ごと逸らされてしまう。


「…さ、言いたいことは全部言ったし、こんなところでうじうじしててもダメだね。」


大きく伸びをして、先程とは違うすっきりしたような顔をしているの海翔。


「コトブキくらい大きな街なら新しい仲間、見つかるんじゃない?ほら、行こう。」

『!…うん!』


その言葉は新しい仲間を迎え入れてもいい、という海翔の意思。
先に歩みを進めた海翔の背を追って、私は駆けた。

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