愛を込めて花束を-黄瀬涼太-

□君の名前と、情報を
4ページ/5ページ



「青峰君は、あの短い時間の中で全力を出していました。
 でも、それでも莉叶さんの方が圧倒的に上でした。
 その日、監督から頭を冷やせと言われ青峰君は強制的に帰らせられました。
 あの後でしたから、青峰君も素直に従いました」


でも翌日、体育館の中に入ってきた彼の目は腫れていました

それだけならまだよかったのですが、顔も腫れていたのです

流石に心配になり僕も周りと一緒に問いかけましたが、彼は一言も言葉を発さず体育館の中で立っていました

その数分後、莉叶さんが体育館の中に入ってきたのを青峰君の光の無い瞳が捉えました

周りの仲間を先輩問わず掻き分けて彼女の前に姿を現した直後



「青峰君は悲鳴に近い声で叫びながら頭を床に擦り付けました」


「あ、あの青峰っちが!!?
 それって...まさか土下座!!??」


「...僕もあんな青峰君を見たのは、初めてでした」


許すなんて言わなくていい
いや、許すな
俺を許すな
俺は自分の誇りであるあんたをけなした
俺は自分が憎くてしょうがねえ
どうやってこの罪を償えるか考えた
けど、俺の頭じゃよくわからなかった
だからどういう形でもいいから、俺にあんたの素直な気持ちをぶつけてくれ
これが俺なりの精一杯なんだ、頼む
頼む


周囲からの目なんてあの時の彼には関係なかったのでしょう

莉叶さんは青峰の前に立ちました


...青峰


彼女に名前を呼ばれた彼の身体は、一瞬ビクリと確かに跳ねました


彼女はそんな青峰君の前でしゃがみ込み、小さく白い手で彼の両頬を包み


...青峰


そしてもう一度、名前を呼びました

彼もようやく顔を上げました


...こんなに自分を殴りつけたの?


目の腫れは一晩中泣いたせいであることは間違いなく、誰から見ても明らかでした

莉叶さんはそれには触れず、まるで見透かしているかのような瞳で青峰君にそう問いかけました

予想外の発言と、どうしてわかったと言わんばかりの動揺を見せました



青峰、わたしは幸せ者だよ
...確かに、わたしはプレーヤーとしてバスケに関わることはやめた
でも、わたしは二度とボールに触らないなんてことは一度も言ってない


そして優しく微笑んで


...こんなにバスケを一途に想ってくれてる人が自分の周りにたくさんいるんだから


省略された言葉がかなりあることをその時僕等はわかりました

それと同時に、最後に発した言葉にはいくつもの感情が乗っていることもわかりました




「僕はその時、莉叶さんにはバスケの女神がついていると確信しました。
 勝利の女神でもあるその存在は、彼女に笑んでいると...バスケの神様は莉叶さんを愛しているのだと。
 そして本人も、そのバスケを愛しているんだと」



...敵いませんね



黒子は苦笑して付け足した。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ