愛を込めて花束を-黄瀬涼太-

□影の覚悟
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「よっ、と...」


彼を取り囲んでいた女子生徒の姿はもうなく、落ち着いたところで黄瀬は体育館ステージからふわりと着地する。



「なっ...なんで、ここに!?」


「いやー次の相手誠凛って聞いて黒子っちが入ったのを思い出したんで、挨拶に来たんスよ」



黄瀬が誠凛バスケメンバーに近づくにつれて彼等は後ろへと後ずさる。

唯一その場から動かなかった黒子がいつの間にか先頭に立っていた。



「中学の時、一番仲良かったしね」


「...普通でしたけど」


「酷ッ!!」



自分の目の前に立ち言った黄瀬に向かって表情崩さず告げる黒子。


オーバーリアクションでウソ泣きをする黄瀬を見て、周囲は無言になる。



だが誠凛一年が持っていたバスケ雑誌に黄瀬の記事があることを思いだした彼等は、それを読み上げる。





「中二から...!?」


目の前にいるキセキの世代の一人のバスケ経験の浅さに驚き声を上げる日向。


「え、いやーあの...大袈裟なんスよその記事、ホント。
 キセキの世代なんて呼ばれるのは嬉しいけど、その中で俺は一番下っ端ってだけですわ」



ヘラヘラと苦笑いをしながら頭を掻く黄瀬。



「だから黒子っちと俺はよくいびられたよなぁ」


「僕は別になかったです」


「アレ!!?俺だけ!!??」



黒子のストレートな突っ込みに黄瀬はさらにオーバーなリアクションを取ろうとする。

二人の間には妙な境界でもあるのだろうかと誠凛は沈黙していた。






「!」


バシュッ!!!




「ッたー...ちょ、何?」


「せっかくの再会中悪ィな」


「「火神!!?」」


「けど、わざわざ来て挨拶だけもねーだろ。
 ちょっと相手してくれよ、イケメン君」



ボールを黄瀬に思いっきり投げたかと思えば、彼を挑発する火神。



「えー?
 そんな急に言われてもー...」


余裕気な様子で黄瀬は地に落ちてしまっていたボールを拾い上げる。



「...あー...でも、さっき...うん、よし、やろっか」



ちょっと考えた後、ケロリと前言撤回する黄瀬。




「いいモン見せてくれたお礼」


ひょいっとボールを火神に投げる。

火神はそれをキャッチすると敵意むき出しで笑った。





「...マズイかもしれません」


「ぇ...?」



二人がコートに入り向き合うと同時に、リコの隣にいた黒子が呟く。



1on1、正面対決。


構える火神とは対照的に、ボールを持つ黄瀬は口角を上げたままだ。



ダンッ



黄瀬が、正面から視線を逸らしたのと同時に動き始めた。

火神はそれを追う。




だが、次の瞬間ボールがリングに近付く。


「!?」


それは先程の練習で火神が見せたあのシュートの形だった。





(ざけんなッ...それさっき俺が!!)
「なのに、嘘だろ!!?」



まるで自分と戦っているような感覚に陥った火神。

だが、彼も負けじとダンクを決めようとする黄瀬の前に立ちはだかり手で遮ろうとする。



火神の手が、ボールに触れる。

だが、彼が押し返す暇もなく黄瀬の力に圧倒され制止できない。


火神が宙で体制を崩す中、黄瀬はリングにボールをぶち込んだ。




(俺よりキレてて、しかも...パワーも...!)



ダンッ...



火神は黄瀬を見上げるような状態、地に尻餅を付いてしまう。





「これが...キセキの世代。
 黒子、お前の友達凄すぎね?」


「...あんな人知りません」
(数ヶ月会ってないだけなのに、予想を超える速さでキセキの世代は進化してる...)



二人を見守る黒子の眉間にしわが寄った。







「うーん...これはちょっとなぁ...」


「ッ...?」


「こんな拍子抜けじゃ、やっぱ挨拶だけじゃ帰れないっスわ」


火神を見下ろし、黄瀬は再度黒子に近寄る。




「...やっぱ、黒子っちください」


「「「「「...!?」」」」」


「うちにおいでよ、また一緒にバスケやろ?」


「「「「「!!?」」」」」



黒子に手を差し出した黄瀬。

周囲はその光景に目を見開く。



「マジな話、黒子っちのことは尊敬してるんスよ。
 こんなとこじゃ宝の持ち腐れだって、ね?」



どうスか?



「...そんなふうに言ってもらえるのは光栄です。
 丁重にお断りさせて頂きます」


「文脈おかしくね?!」



深々と頭を下げる黒子にすかさず突っ込みを入れる黄瀬。



「そもそもらしくないっスよ、勝つことが全てだったじゃん!
 何でもっと強いとこ行かないんスか!?」


「...あの時から考えが変わったんです」


「...!」


「何より火神君と約束しました」



君達を、キセキの世代を倒すと





言い切った黒子に一瞬ピクリと眉を動かす黄瀬。






「...やっぱ、らしくねーっスよ、そんな冗談言うなんて」


何言ってんのかわかってるんスか



目を細めて付け足した黄瀬を見て、黒子は「すみません」と視線をコートに下げた。






「ふっ...ハハハ」


「...!」


背後から聞こえたのは火神の不敵な笑い声。





「ったく、何だよ。
 俺の台詞取んなよ黒子」


「...冗談苦手なのは変わってません、本気です」


「...フッ」




黄瀬が静かに笑う。




「面白いっスねぇ...待ってるっスよ、黒子っち」




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