愛を込めて花束を-黄瀬涼太-

□挑戦者
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「ぁっははは、ありゃ確かにギャフンっスわ」


隣での練習を打ち切り、練習試合の準備を早急に整えるようにと海常監督は告げた。


地に転がっている火神が折ったリングを見ながら黄瀬は面白そうに笑った。



「監督のあんな顔初めて見たし」


「人を舐めた態度ばっか取ってっからだっつっとけ!」


「...ゴールっていくらくらいするんですかね...」


「え!??
 あれって、弁償...!?」



黄瀬に噛みつこうとする火神の隣で、黒子はポツリと言ってその場から逃げた。







数十分後、練習場所をなくした部員達は二階で立ち見、そしてコートにはユニフォームを着た黄瀬が現れた。



と、同時に海常の制服を着た女子生徒が体育館から溢れんばかりに姿を現した。




「なっ!?
 何じゃい...!?」


「あーあれ?
 アイツが出るといつもっすよ。
 てゆーか...



日向の近くにいた笠松が軽く説明すると手を振っている黄瀬に近付き―――









「テメエもいつまでも手とか振ってんじゃねえしばくぞ!!!」


「ぁぁあぁぁああぁあ!!!」



跳び蹴りを喰らった黄瀬は腰を擦りながら立ち上がる。



「ててて...もうしばいてるじゃないスか笠松先輩ー...」


「てゆーか今の状況解ってんのか黄瀬!?
 ...何者なんだあの10番」


「10番?」



黄瀬はチラリと背後を見る。



「あー...火神って奴っス」


「火神?
 聞いたことねーな...」


「そんなことより!
 最初に先輩のボールカットした11番!」


「!」


「あれが帝光時代のチームメイト、黒子っちっスよ!」


嬉しそうに話す黄瀬。



「凄いでしょ!!
 ね?ねえ!!?」


「何で嬉しそうに謳ってんだお前は!」



本日二度目の攻撃を黄瀬は腹に喰らった。




「...とにかく、あんだけ盛大な挨拶貰ったんだぞうちは。
 きっちりお返ししなきゃ失礼だよな?」


「...!」



笠松の言葉に、ニヤリと笑った黄瀬。



そして、再びホイッスルが鳴り響く。






ボールは先程と同じように海常に渡る。


笠松が黄瀬にパスを送ると、彼はいきなり豪快なダンクシュートを決めた。


体育館が湧き上がる。





「馬鹿野郎!!ぶっ壊すなっつっただろーが!!?」


「ぐはぁああああ!すんません!!!」



三度目の笠松からの鞭を喰らう。




火神は黄瀬がぶら下がっていたリングを見つめていたが、背後からの声で振り返る。




「...俺、女の子にはあんまりっスけど、バスケでお返し忘れたことないんスわ」


「〜〜〜テメエ、上等だっ...!」






ボールがコートの中でガンガンに動く。

中の選手も動きが速い。


ハイペースで試合が進んでいく。




各中学校から集めたレベルの高い選手とキセキの世代の黄瀬涼太。

そして、パスに特化した幻のシックスマンと黄瀬には劣るが抜群の力を持っている火神。


もはや殴り合いだ。




「......」
(このままだと火神君が持たないどころか...)



リコはタイムを取り、皆をいったんベンチに下げた。



(みんなまだ開始から五分とは思えないほど疲れてる...無理もないわ、攻守が入れ替わるスピードが尋常じゃない)





誠凛と反対側のベンチでは怒鳴られている海常。


「...あの一年コンビはヤベエぞ。
 火神はお前が抑えているからいいとして...」


と、チラリと隣で汗を拭いている黄瀬を見て笠松は続ける。



「...何なんだ、あの黒子とかいう異常に薄っい透明少年は...」


「でしょでしょ!?
 黒子っちって実は―――


「だからなんで嬉しそうなんだテメエはッ...!」



今回(以下略)笠松にド突かれる黄瀬。









「...大丈夫っスよ」


「...!」



そんな彼の手をゆっくり払いのける黄瀬。



「すぐにこの均衡は崩れます」


「...どういうことだよ、均衡が崩れるって」


「...なぜなら、彼には弱点がある」


「ッ!...」


「彼のミスディレクションは四十分フルには発動できないんス」


「ミスディ...?何?」


「黒子っちの影の薄さは別に魔法とか使ってるわけじゃなくて...ザックリ言えば他に気をそらしてるだけ。
 一瞬なら俺でも出来ます、俺を見ててください」



そう言い、黄瀬は片手に持っていたボールを後ろに放り投げる。

一瞬、笠松は動きのあるボールのほうへと意識を持っていかれた。









「...ほら、もう見てない」


「ッ...!!」


「黒子っちは並外れた観察眼でこれと同じことを連続で行って、消えたと錯覚させるほど自分を薄めてパスの中継役になる。
 まぁ、やらなくても元から影は薄いんスけど」


「??」


「...けど、使い過ぎれば慣れられて、効果はどんどん薄まっていくんス」


「...なるほどな」





タイムアウト終了、落ち着きを取り戻した海常は再びコートへと戻る。





「...んあ?」


試合が始まり黄瀬がボールを持つと、誠凛は火神を援護しながら中を固めてきた。



状況を理解した黄瀬は仲間にそのままパスを送り出す。


そして、海常は3Pを決めた。





火神がボールを持つと黄瀬がマークに付く。

それから逃げるように火神は黒子へとパスを出すが、効果が薄れてきた彼を確認できるようになった海常がそれをカットし始める。



...点差が、開いてきた。





「...そろそろ認めたらどースか?」


「!」


「今の君じゃあキセキの世代に挑むとか十年早いっスわ」


「何だと!?」



確かにこのままの流れだと、点差は開くことはあっても縮まることはないだろう。

『チームとして』という考え方も間違いではないが、バスケに限らずスポーツはまずは個人の能力で左右される。

誠凛と海常のスペックが釣り合わないのだ。




「唯一対抗できる可能性があったのは君スけど...大体実力はわかったっス」


ポテンシャルは認めるが、俺には遠く及ばない


「君がどんな技をやろうと、見れば俺はすぐに倍返しできる。
 どう足掻いても、俺には勝てねえっスよ」


ま、現実は甘くないってことっスよ













「...くくくくっ、ぁはははははは!」


壊れたかのように笑い始めた火神に、周囲は視線を彼に集める。



「...悪ィ悪ィ、ちょっと嬉しくってさ」


「...嬉しい?」



黄瀬が首を傾げる。



「そういうこと言ってくれる奴、久しぶりだったからよ。
 むこうじゃそれが普通だったんだけどな」


「むこう?」


「アメリカ」


「ぇ?!アメリカいたの!!?
 うわはぁすげー!!」


さっきの威圧感は何だったのかというほど、黄瀬はまるで犬のようにキラキラとした顔で火神に近寄る。




「こっち帰ってバスケから離れたのは早とちりだったわ...張りが出るぜマジで。
 やっぱ人生挑戦してなんぼじゃん?
 強ェ奴がいねーと生きがいになんねえだろ!?」



勝てねえくらいがちょうどいい!!



「―――...」


そう言い放った火神を見つめる黄瀬。




「...お陰でわかったしな、お前の弱点」


「弱点...!?」



そうだ、見ればできる


なら、見えなかったら?


つまり―――






「コイツ(黒子)だろ、お前の弱点!!」




to be continued



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