愛を込めて花束を-黄瀬涼太-
□ふわりと漂う
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夏休みが、後半に差し掛かってきた。
バスケ部は毎日のように体育館の中を走り回っていた。
練習試合を地域の他学校と組んでの練習なんかの時は一日中ボールと戯れていた。
黄瀬はあの日、部活の帰り道に黒子から聞いた話は心の中に閉まっていた。
プレー中はバスケだけに集中して走っていた。
でも、部活が終わるのと同時に彼の脳裏をかすめるのはあの話だった。
(...青峰っちが、土下座...か)
ボールを片付けると言っているチームメイトの声を聞き流しながら、一向にボールから手を放すつもりがない。
緑間に怒られた青峰は舌打ちをしてようやくボールを手放す。
そんな彼の様子を遠目で眺める。
それよりも気になっていたのは、彼女のことだ。
あの日以来、黄瀬は彼女の姿を見つけられずにいた。
(黒子っちのような影の薄い人...見つけるのもはっきり言って困難スよ)
探せば探すほど、彼女のオーラすら感じ取ることが出来ない。
「...何をキョロキョロしているのだよ」
「!緑間っち...」
背後に立っていたのは緑間。
「緑間っち、青峰っちって...あんなに落ち込んだ後にどうやって普通に接することが出来るようになったんスかねぇ...」
(...聞いたのか)
彼女と青峰の過去を
ふぅっと息を吐く緑間。
「...莉叶はそんな心の狭い人間ではないのだよ」
もちろん、あの青峰もその時はかなりキてたから今のような関係を築くには少々時間がかかったがな
「あれから青峰は狂ったように練習し、さらに一人で体育館に残ってただひたすらボールを打ち込んでいた。
...オーバーワークだ」
誰も止められずにいた
奴はいつか怪我をする
誰もがそう思いながら体育館を後にしていた
『連続十二本シュート、やるね』
『...いつからいた』
「青峰は気付いていなかったのだよ。
莉叶は初日からずっと、アイツのオーバーワークを見ていた」
彼女が声をかけて初めは目を合わせることも出来なかった青峰だったが
「がむしゃらに自主練をする奴を、なぜか莉叶は黙ってその様子を見ていた」
それを知った赤司は、なぜ奴の行動を止めないのかと彼女に聞いた
『時間が必要だから』
青峰は自分で気付く
何食わぬ顔でそう言われたらしい
そして数日後、彼女の言う通り青峰はオーバーワークをやめた
「奴が何に気付いたのかは俺にもわからないがな」
そう言うと、緑間はその場からまた動き始めた。
「みっ、緑間っち!!」
黄瀬の声が、その動きを制する。
「その、あの子は...今どこにいるんスかね?」
「...紫原と、話していたのだよ」
そう告げると、緑間は体育館の中から出ていった。