愛を込めて花束を-黄瀬涼太-
□女
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小柄な人間-莉叶-に泣きながらすがり付いた桃井。
「てめえ!
よくも俺の肩に跳び蹴りしたなあ!!?」
「素直に受け止めるのが悪いんじゃん」
倒れていた三年の男子生徒が彼女に向かって怒鳴り散らすが、当の本人はさらりと言う。
「桃井ちゃん、怪我ない?」
莉叶の呼びかけにコクコクとうなずく桃井。
「この野郎ォ!!」
ビュッと莉叶に拳が迫る。
彼女は冷静にその振り上げられた拳を、ただ黙って見た。
ドスッ!!
「...黙って見ていれば、次は暴力っスか」
「!」
「き、きーちゃん!!」
莉叶の目の前に、黄瀬が立っていた。
彼の掌の中に、振り上げられたはずの拳がある。
黄瀬はギチギチとその拳を押し返す。
「...あ゛?
何だ、てめえ」
「その腕、下ろしてもらえないっスかねぇ...面倒事は御免なんスよ」
「あ゛あ゛!!?
じゃあテメーがどけよ!!」
「...早くしてくんないスか。
俺、今めちゃくちゃ機嫌悪いんスよ」
黄瀬の目が、スウッと細められる。
低く、唸るような声。
いつものヘラヘラした笑顔を崩さない黄瀬と同一人物とは思えないほどの姿だ。
「ッ...くそ!」
バッと腕を下ろす三年。
「...てめえ、確か二年のバスケマネージャーだったな。
覚えとけよ」
黄瀬の後ろにいた莉叶を人睨みすると、桃井を取り囲んでいた数名の男子生徒は舌打ちをしながら人混みの中へと消えていった。
「きーちゃん!!」
桃井が黄瀬の胴体に手をまわして抱き着く。
「...大丈夫っスか、桃っち」
「うん、ありがとう...!」
よかったと言って、黄瀬は背後に立っている莉叶に目を向ける。
「怪我...ないスか?」
「...おかげ様で」
「あと、スカート丈短いのに蹴りなんて入れたら...女の子はいけないっスよ」
「興味あるの?」
「え゛!!?
い、いや、そういうわけじゃなくてッ...
「残念でした、中...履いてます」
そう言ってチラリと彼女はスカートの裾をめくり上げる。
ヒッ!
と、声が漏れそうになったのは心にしまっておいて。
両手で覆い隠した目を薄ら開けると、彼女の白い皮膚に密着した黒いズボンが見えた。