愛を込めて花束を-黄瀬涼太-
□手を差し伸べてくれる先輩
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よっこらしょと言って彼女と同様、ベンチに荷物を置き隣のブランコに腰掛けた。
「こうやって一対一で話すのは久々だな。
元気してたか?」
「はい、虹村先輩も調子良さそうですね」
彼の特徴である切れ長の鋭い目には、優しさがうかがえた。
「どうだ、みんな元気にやってるか?」
「はい、虹村先輩が託した赤司を中心にみんな好成績を収めてます」
「そうかー」と懐かしそうに言う虹村の隣で、莉叶も彼がいた数ヶ月前の帝光バスケ部を思い出していた。
「...ま、アレだ。
俺に告白しにこんな場所に呼び出したなら喜んでお受けするが...本題はそっちじゃなさそうだな」
「...」
「...噂は俺も色々と聞いている。
で、実際のところどうなんだ?」
「...強いです、彼等は。
試合にも負けません、今までたくさん人一倍練習をこなしてきました。
誰よりも負けず嫌いで...でも、幸せそうでした」
『幸せそうでした』
現在形でない、過去形。
虹村は無言で彼女の言葉を待っていた。
虹村の残していった形-全中二連覇-を背負い、彼等もまたその上を目指している。
だが、青峰を初め彼等に変化が出てきたこと。
練習に参加しない。
勝利に異常に執着し始めたこと。
彼等の上の存在がいなくなり、光が道を失いつつあるということ。
「きっと、彼等はこれからもっと強くなる。
そしてそれと同時に、彼等は―――」
わたしと同じ光を放ち、そして、わたしと同じ過ちを犯す
「...なるほどな」
キィ...とブランコが音を立てる。
「可愛い後輩が先輩を超える力を持つことはある意味嬉しいし、主将って立場を背負ってきただけあって思い入れも違うな」
だが
「もしお前がそう言うように本当にそれが現実と化したら、俺は―――悲しいな」
莉叶は顔を上げられなくなった。
「バカ言うな、俺の後輩に限ってそんなことはない」
そう言ってくれるのではないかとどこかで期待していた。
でも、馬鹿なのは自分だった。
彼の目には現実を見ることが出来て、それを受け入れる。
例え自分が後輩の彼等に追い越される日が来ても、「よくやったな」と言ってしまうことを莉叶は知っていた。
現実は残酷だ。
彼女の話を真に受けるということは、彼にも『もし』という形でどこか似たようなことを考えていたのかもしれない。
自分の過去と、重なった。
『悲しいな』と言う彼の言葉が、まるで自分に向けられているかのような感じがして...虹村の顔を見れなくなった。
「...まぁ、まだ断言は出来ねえ。
さすがの俺にも、この先どーなるかはわからねえしな」
俺の親父みたいに
と、虹村は付け足す。
「...とにかくだ、これだけは一つ言っておく」
ハッと莉叶が顔を上げると、隣にいたはずの虹村が目の前に立っていた。
「お前がアイツ等のことを信じなくてどーする」
「...!!」
「その力を持つあまり孤独になって辛い思いして、苦しくて悲しくてもがき苦しんだお前がアイツ等のことをわかってあげられなくてどーする」
「...」
「...もしかしたら、最悪の方向に進む可能性もある。
けどな、そこはまだ『結果』じゃねーんだよ。
アイツ等のバスケ人生、まだ終わっちゃいねーんだよ」
「...虹村先輩」
自分の名をはっきりと言った莉叶を、彼は見下ろした。
「いつまでも、離れても、あなたはわたし達にとってかけがえのない先輩です」
「...!バーカ。
惚れた女の力になれるのは願ったり叶ったりだっつーの...」
ほら行くぞ
と言って虹村はカバンを二つ持ち上げる。
「今日は久々にあのコンビニでアイス食うか」
「おごりですか?」
「あー?...しゃーねえなあ」
信じてやれ
莉叶の心に、もう迷いはなかった。
to be continued