愛を込めて花束を-黄瀬涼太-
□変わりゆく仲間、結束、そして絶望
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脈が戻り、安定し始める。
とりあえず命は繋ぎとめられた。
次々と病室から出ていく医師達に、彼等は大なり小なり頭を下げた。
たくさんの管が彼女と繋がっている。
酸素マスクから小さな呼吸音が聞こえる。
身体の変化を示す機械音が、やけに耳に付いた。
二日前に聞いた話によると、彼女をはねた車は急ブレーキによってそのまま横転。
事故の原因は携帯に気を取られていた運転手が信号に気付かず莉叶をはねたとのこと。
重症だった運転手も別の病院へと搬送されたが、頭を強く打ち付けていたため亡くなったらしい。
意識を失う最後まで念仏のように「ごめんなさい」と床で謝り続けた最期だったという。
唯一警察から事情を聞かれた際に言ったのは「今から自分にひかれるはずの相手はなぜか笑って見えた」...それだけだった。
...いや、実際そうなのだろう。
その場に居合わせた人からの話では、彼女は車にはねられるまでのわずかな時間の中で動きを止めてしまっていたらしい。
動けなかったというのが正しいかもしれないが、あの莉叶が全く動けないとは思えなかった。
...何かを、いや、こうなることを知ってて望んだのか?
そんなはずはない、なら...なぜ?
とにかく、原因を作った本人がこの世にいない以上当てどころのない怒りを自身の中に閉じ込めるしか術はなかった。
「...僕達は、莉叶のためにも勝たねばならない」
オッドアイへと変化した赤司の瞳が、チームメイトへと向けられる。
「僕達にこのような失敗はもう二度と繰り返してはならない」
『失敗』とは、『彼女を失った』という失敗だろうか。
彼のみぞ知る。
「全てを教えてくれた莉叶に、僕達は命を懸けて恩を返す...そのために今の僕達ができることは、バスケで勝つことだ」
この時は、異論を唱える者はいなかった。
「...誓おう。
僕達は全てに勝つと。
そして...僕達の誇りを、もう誰にも傷付けさせやしない」