愛を込めて花束を-黄瀬涼太-

□光と影の関係
2ページ/2ページ



「「「おつかれしたー!」」」



練習が終わり、周囲は制服に着替えて校舎を出る。

体育館の戸締りをキャプテンである笠松が最後に確認し、出入り口の鍵を閉める。








「ちス」


「...」


正門前を通過しようとした笠松に声をかける一人の人物。











「...ケータイにわざわざメール入れて呼び出すなんて、随分調子乗ってる一年だな」


「あっはは、そんな言わないでくださいよ先輩」



笠松とへらへら隣で並んで歩いているのは...黄瀬。



「...どうだ、昨日の結果は...お前にも少しは俺達凡人の気持ちが理解できたか?」


「もう懲り懲りっスね、あんな思いするのは」


「まだ一回目だろーが、しばくぞ」




そう言って、二人は河原へと下りていく。




「...ま、俺ももう懲り懲りだな...負けるのは」


「...そーっスね...」




ドサリと小川の傍まで歩き、腰を下ろす黄瀬。


笠松もそれに続いた。




「...ようやく話す気になったか」


「...一つ、俺のいた帝光中バスケ部の...キセキの世代の話を、ちゃんと伝えておこうと思って」


「...」
(なるほど、まだ避ける気か...本題は)




横目で黄瀬を見る笠松。


更衣室で感じた違和感の話は、彼はまだしてくれなさそうだ。





「...俺は、桐皇学園高校に行った青峰っちに憧れてバスケを始めたんス」


「...中学二年の時か」


「はい...あの頃は、とっても毎日が楽しくって...バスケに必死だった」



生まれて初めて...『憧れ』という存在が出来た


俺にも真似出来ない彼の天才的なプレー



「...で、俺は黒子っちと出会った」


最初ははっきり言って「俺に手も足も出ないコイツが俺の教育係!?」と思ってたんスけど


黒子っちのパスにいつの間にか数多くの試合に助けられ支えられていることに気付いて...尊敬し始めた



見た目は全然ダメで、確かに一人じゃ何にも出来ない人っスけど...彼は俺達『光』の『影』だった



「...」


懐かしそうに遠くを見ながらそう言う黄瀬を、笠松は黙って見ていた。




「でも...何かが狂い始めたんス。
 誰もが変わっていって、そして...俺達の唯一絶対な存在、大切な人まで失ってしまった」


(...キセキの世代の、唯一絶対的な存在...?
 『失った』...?)



眉間にしわを寄せて、無言で黄瀬の表情をうかがう笠松。


そして、息を詰まらせた。



苦しいのか悲しいのか、辛いのか泣きたいのか...ぐしゃぐしゃに感情が渦巻いているのであろう...黄瀬の表情は、酷く...歪んでいた。




「...先輩、今だから言うっス。
 俺、今までの練習も試合も手を抜いていました」


「...!」


「がむしゃらにプレーするどころか、俺は...バスケをすることから逃げていたんスよ」



そう言って、黄瀬は自分の手を握ったり開いたりを繰り返す。




「どうしたらいいのかわからなかった、バスケが楽しいと...どっかで思えなくなっていた。
 ...今回、そういったものを黒子っち達から気付かされたんス」


「...」


「キセキの世代、俺達『光』の『百戦百勝』『絶対勝利』...俺達、黒子っちにも、同じ『誓い』がある」



小川の心地よいせせらぎの音。

光る水面。




「...正直言って、他の四人のキセキの世代のコピーは俺にも無理っス」


「んなっ...!?」


「俺は自分より上の力を持つ彼等の能力は再現できない。
 つまり、俺の上を行く彼等と同等のレベルに這い上がるまで...俺一人じゃ、どんなに頑張っても不可能なんスよ」


「...」


「黒子っちも変わった、俺も変わった。
 だから...俺も今から『また』変わるっス」


「...!」



先程とは違う、穏やかな表情になった黄瀬を再度笠松は見つめる。


自分より二つも年下の後輩がこんなに大きく見えるのかと、笠松は思った。





「...ああ、つーか『変われ』だ」


「!」


「テメーは確かに『キセキの世代・黄瀬涼太』だ。
 でも今はな、『海常高校エース・黄瀬涼太』なんだよ...馬鹿」



そう言って、笠松は小石を一つ手に取ると小川へと投げた。


ポチャンッと、音を立てしぶきを上げて沈む石。





「そして、俺は『海常高校キャプテン・笠松幸男』だ。
 ちったァ頼れ、一年坊主」



笠松はその場から立ち上がる。


オレンジ色に染まり始めた空...太陽が燃えている。




「...何でもかんでも一人で背負い込もうとすんじゃねーよ。
 そんなことしてっから負けるんだろーが」


「...」


「俺達は仲間だ、チームメイトだ。
 先輩後輩・能力技術...んなもん関係ねーよ、コートに入ってしまえば一緒だろ。
 一人じゃシュート練習だけだし、試合も出来ねえ。
 ...そうやって、誰かを頼るように出来てんだよこの世の中」


「...笠松、先...輩...」


「ま、どーやら俺にまだ隠し事はしてるみてーだがな」


「っ!」


「...今回そこまで話せば、まあ許してやるよ」




いつかまた話せ




付け足して言う。





「...俺もお前を頼ってる、今以上に頼ってプレッシャー掛ける日も来るかもしれねえ。
 ...そん時潰れねーよう、今のうち鍛えとけ」


「...!」




カバンを持ちあげ、笠松は再び立ち上がる。




「...テメッ何て顔してんだ気持ち悪ィ!!」


「いでっ!
 ひ、酷いっスよそんなの!!!」


「そんなしょぼくれた顔してる奴と並んで歩くなんて御免だ!
 一人で帰れ!!」


「そんなぁー!!
 あんまりっスよ先輩〜!!」


「るせえしばくぞ!!!!!!!」


「いだっ!!
 待って、待ってくださいよ笠松先輩ー!!」




to be continued



前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ