ふたつの唇-赤司征十郎-

□Fairy story like a dream.
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ザァアァアアァァ―――


激しく地面を叩きつける雨。

滝のように降るそれは、車の音がかき消されてしまうほどの音だった。

自分から半径一メートル前後ぐらいしか、景色が見えないほどの大量の雨粒。




ザァァアァアァァ―――



まだ夕方であるが、この天気では夜に近い暗さだった。

小さな公園の遊具が無防備に濡れている。




そして、この少女も。








「―――何をしているの?」


ザァァァアアア―――



一向に止む気配はない雨の中の公園の中に、二つの人影。



「そんなところにいたら、風邪をひくだろ?」



公園の中にあるベンチの上で、その少女は小さな身体を余計小さく丸めうずくまっていた。



「...うん、いいの」



集中しなければ、激しい雨音にかき消されてしまうほどのか細い声。














「...よくない。
 家はどこ?傘一本しかないけど大きいからもう一人くらいは入れる。
 ...送るから、道教えて」


少女は一向に顔を上げない。


上げずに、言った。




「...そんなの、ない」


「え?」


「家なんて、帰る場所なんてない」




ザァアアアァアァ―――



少年は身体に似合わない大きな黒い傘をさし、目の前でずぶ濡れになっている少女を見ていた。






「...一緒だね、俺もそうなんだ」


「ぇ...?」



予想外の言葉に、少女はゆっくりと顔を上げた。


二人の幼い瞳が、重なる。





「だったらさ、俺の家族になってよ」


「家、族...?」


「ああ、俺の家族に」




小さな手が、少女に差し伸べられた。




「俺は赤司征十郎。
 ...君は?」


「...梢、白銀梢(シロガネ コズエ)」


「なら、今から君は...赤司梢(アカシ コズエ)だ」







―――人は結局、自分自身のことで手一杯だ。


家族も友達も、恋人もなぐり捨てるくらいに。


でも、『たまたま』一瞬心に余裕が出来て

『たまたま』手が空いて

『たまたま』目に留まって



あ、この人の話を聞いてあげたいな



と思っただけなのだと、人生の先輩は言う。








否定もしないが、肯定もしない。


征十郎と梢の出会いも『たまたま』なのかもしれないが、その偶然の出会いを否定もせず...肯定もしなかった。




世界は、残酷だ。


to be continued



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