Novel

□端から端まであいしてる。そのさん。
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「…ほんとに、いいんだな。」
「そういってるじゃん」

樹は、緊張しているみたいで俺の髪をかき分ける掌に少し汗をかいている。

「根本は染めなかったんだ。すぐ戻すつもりだったから。」
「言ってたね。」
樹の家のふろ場で上裸に短パンジャージで鏡と向かい合いながら、自分の髪を見つめた。


「…けど茶髪も可愛かったよね。」
「まあな。
 …俺黒のほうが好きだけど。」


何でもないことのように言った樹に少しだけびっくりする。

「意外。」
「そうか?」
「うん。」


―れんさんも京本も、褒めてくれたのは茶髪だったから。

「そっか、黒好きな人もいたんだ。」


「俺の好きな俺」を
ちゃんと見て、好きだと言ってくれる人がいたんだ。


「なんだよぉ、俺変なこと言った?ただの趣味だよ。茶も可愛かったけど。
 …なんとなく。黒のほうが…なんつうか北斗っぽい、ってこと。」

すこしだけ、泣きそうになって、あ、ヤバイ泣く、って思ったのに、なぜか俺は笑っていた。

「じゃあほら、染めるからな?良いのな?」



「あぁ。

…ねえ樹、ありがとう」

お安い御用、そう微笑んだ樹には、ほんの一部しか伝わってなさそうだったけれど。


俺のわがままを聞いて髪を染めてくれて、
黒髪を褒めてくれて
あの日俺と一緒にご飯を食べてくれて、一緒に真夜中の星空の中歩いてくれて


俺のことを、好きだと言ってくれて

ずっとそばにいてくれて、ありがとうって、

俺は、そう言ったつもりだったんだ。
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