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□秘密
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「あーーーーー…あっぢぃ…溶ける…」

涼しい教室から夏期講習(いやなんで大学受験する訳でもないのにそんなもん受けなきゃならないのか。授業日数が足りてないからである。わかってる。けど、理不尽。)を終えて追い出され、炎天下に投げ出された俺は早速太陽へ悪態をついた。
時間は1時半。お分かりいただけただろうか。気温のピークである。

今日はこれが済めば久々のオフだ。家に帰ってゆっくりするか、服でも見に出かけるか…と、迷ってるうちに多分終わってしまうんだけど、迷ってる時が楽しいのでまぁいい。
取り敢えずアイスでも食べよう、とスクールバッグから財布を取り出したその時だった。

「うっわ…マジかよ」

入っているはずの筆箱と数学の教科書が、無い。

まぁ、家で勉強する訳でもないし特に無くて困る程ではないのだけれど、職業柄毎日学校に来れないので置きっぱなしにするのも気が引けた。

一瞬面倒くさくなったけれど、くるりと向き変える。
仕方ない。幸い今日は暇だ。
俺は忘れ物を奪還すべく、ついさっき後にした学校へと歩き始めた。


靴を履き替えて、のんびり階段を上っていく。校舎に入るとやっぱり少し涼しい。
―たどり着いた教室の扉を開いた時、俺は一瞬自分の眼を疑った。

「…ち、ねん?」

一番、窓際の席。前から3番目。
気持ちよさそうに、メンバーが寝こけていた。


取り敢えず自分の席から忘れ物を回収すると、知念のことを起こさないように静かに、ゆっくり近づいていく。隣の席に失礼して、頬杖をついた。

窓からは容赦ない太陽光が差し込んでいる。そして蝉の声。近くの小学校から、プールにでも入っているらしい子供たちのはしゃぎ声と笛の音が少しだけ聞こえる。あとは、グラウンドの部活動の声。

突っ伏して寝てる知念の寝顔が、丁度こちらを向いて。目が覚めたらすぐに見つめ会えそうで。

なんと言おうか、奇跡的に美しい光景だと、思った。


誕生月に似合わず夏が似合う男だな、とはおりおり感じていた。
例えば有岡大貴みたいな、向日葵みたいな感じではなく、言うなら朝顔のような。
猛暑だろうが知念の周りだけなぜか少しだけ涼しげだった。
誰が持ってきたのか、教室に無造作に置かていた団扇で扇いでやると、風に煽られた知念の髪が少し揺れて、声を上げることをせずしばらく見入っていた。


人の気も知らないで、とは、正直時々思う。

いつからだろうか。この男を好きになったのは。


頭がいい知念のことだから若しかしたら気づいているのかも、とか、いや、そういうことにだけは鈍そうだよな、とか、そもそもメンバーから恋愛感情持たれているかもしれないとかこの男が考えるんだろうか、とか、いろいろ、色々な思考が年がら年中頭の中を駆け巡っていて。
けど、心だけはいつも素直に、ただただ、知念侑李が好きだと叫んでいた。

けど、男なことは置いておくとしてもこいつは、メンバーで。同級生で。幼馴染で。
親友で。


だから

「男にモテるんだよね」
そう、知念が俺に告げたのもだからきっと、深い意味というか、何らかの含意があっての行動では無かった、はずなのだ。
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