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□ながれる、
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「最後は心中だよ、2人でね。」
付き合う前に、俺に松村北斗はそう言い放った。
いや、もしかしなくてもあれは、告白すらする前だった気がする、いや、絶対そう。
けれど多分、彼に俺の気持ちはとっくにバレてしまっていた、別に隠す気も無かったんだ。隠せる訳も無かったし。
ふたりっきりでご飯を食べている時、ねぇ慎太郎、と珍しく自分から口を開いて、そう言った。
「最後は心中だよ、2人でね。」
俺は最初、言われた意味がわからなくて、恐る恐る、なにか俺、悪いことでもした?怒ってる?って聞いた。
北斗は、存外に優しい顔をして、静かに首を振ると、口の端を控えめに上げて、その言葉の続きを。
「それでも、お前は、俺が好きなの?」
よく分からなかったけど、俺はいつだってこの人が好きだ。そう、頷くと、ねぇ、
「ねぇ、じゃあ、俺と付き合って。慎太郎。」
―――――――――――――――――――――
夜、滅多にない事だが、俺より先に寝付いた北斗の寝顔を眺めながら、ふと昔のことを思い出した。
昔、と言ってもそう時間が経っている訳では無いだろうけど、すごく前の事のように感じる。
あの言葉の真意は、未だに俺にはよくわからない。けれど、魔法みたいに俺の頭に残って離れないのだ。
「……何見てんの?変態なの?」
「うおおおおおっ!!!起きてたの!??」
唐突に目を開くもんだから俺は驚いて仰け反る。視線で起きたよ、ってうっとおしそうに、目を擦りながら恋人が答えた。
「…もーう寝かせてよ……寝起きドッキリ思い出したじゃん…」
ぶつぶついいながら、喉が渇いたのかキッチンへ向かう北斗の背中に、ほんの出来心で聞いてみることにした。そう、ついさっき思い出したところだから、少し気になっただけだ。
『最後は心中だよ、2人で』
俺の声に、驚いたように背中をふるわせて固まった北斗。
「…あれ、どーゆう意味だったの…?」
「…覚えてたの。」
「まぁね、衝撃だったもん。」
ミネラルウォーターをコップについて、飲み干すと北斗は言った。
「……お前の、死因になるの少し怖かったんだよ。」
「はぁ!?病気にでもかかってるの?かんせんしょー?てきな!?」
違うわバカ、話はちゃんと聞け!って怒られたけれど、だっておれ、全然わからないよ。何を言われているの?今俺…、
北斗は、呆気に取られる俺を置き去りになぜだか愛おしそうに見つめて、コップをゆすいで乾かすと、再びベットに戻る。
おいで、しんたろ。
優しい声でそう呼ばれて、俺もベットへ潜り込んだ。寝っ転がって、お互い内側を向いて向かい合うと、うふふと笑う。なんだよ、可愛いな。
「地球最後の日まで、生きてそうだねって。」
「…俺が?」
「うん、……だからね、俺なんかと一緒になったら、慎太郎が普通の人間になっちゃいそうな気が、していたの。ほら、普通に歳をとって、普通に風邪をひいて、普通にインフルエンザにもなるし、…地球最後の日なんて待たないで、普通に死んじゃう。」
「う…ん?」
なんだか凄いへんなことを言われている気がするのだけど、なにせ北斗が真面目くさった顔で話してくるのでつっこみづらい、ぇえ…俺別に北斗と付き合ってなくても普通に歳とるし死んじゃうと思うんだけど気の所為なの…?
「…ふふっ、大雑把に言えば、手に入れない方が俺もお前も幸せでいられると、そう思ったんだってことだよ。俺と付き合うなんて心中するみてぇなもんだよ、って、最後通告のつもりだったけど…まぁ伝わってなかったならそれはそれで。覚えてたのにはびっくりしたけど。」
「…ふぅーん…」
ようやく、5割くらい理解出来て頷きながらもやっぱり若干理解に苦しむ。
だって…ねぇ…?
「北斗はさ、俺を買い被りすぎだよ。普通の人間だよ、俺も。風邪だって引くし。」
それは知ってる、ってうふふってした北斗が可愛くて、もうなんかなんでも良くなってきた。だって北斗、俺、考えてることあの日からずっと、ずうっとかわらないんだよ。
「北斗。」
「なに」
恥ずかしくなったみたいでそっぽを向いてしまったので、逆に好都合と後ろから抱きしめた。
ちょっとだけ心音の速度が早いの、お互いそうだから多分気づいてないだろうな。
「…俺一人で地球最後の日まで生きるより、50年後くらいに、うん、普通に、2人で死にたいよ。」
途端、驚いたように身を捩り、信じられない、って顔でようやくこっちを向いた北斗の顔は、まっかっかだった。
「…なにいってんの、しん…っ!ん!!あっ!…っんんんん!っ!…たろ…っしんたろう!」
「…ちょっと静かにして」
あーもうダメ、可愛すぎる、
我慢できずに唇を重ねて、舌をねじ込んで荒々しく口内を食べ尽くす。びっくりしてた顔は怒った顔に変わってたけど、耳まで紅くしてるから全然怖くない、全然。嘘、あとのこと考えたらちょっと怖いけど。しょうが無いでしょ、可愛いのが悪い。
「頼むから、いい加減、観念してよ北斗。」
―全身全霊を掛けて俺に愛されてる、自覚を持ってよ。