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□ハネムーン
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「これ何よ?」

数年前に、サークルか委員会の夏の飲みの席で俺が書いた短冊を見つけたジェシーが言った。

なんでこんなの取っておいてあったんだろう。
べろんべろんになって、カバンに放りいれて、持って帰ってきて。確か翌日なんとなく捨てずに閉まって。
それがしばらく、デスクの中で眠っていて。

「『しん…ちゅう?』」
「しんじゅう、な。」

うーんっと…といいよどみながらも、スマホの画面を見せながらジェシーに教えてやる。

「好きあってる同士が一緒に自殺すること。」

ジェシーは、へぇ!と興味深そうに頷いてにこにこした。
あまり、積極的にお前に教えたい日本語ではないけど、まぁいい。

「…それは…どうして?」
「そりゃあ…それぞれに事情はあるだろうけど、どうしても認められない恋愛だったりさ。ほら、来世でむすばれるため、とか…」

「俺ら別に、そんなんしなくたってもう結ばれてるじゃん」
「はずかし、から!じぇしーやめて。」

さらっととんでもないことを言うのは、この男の悪い癖だなぁ。

「でもしたいんでしょう?心中…」
「まぁな、心中したいって言うか、理想の死に方なんだよ。昔から。」

そう答えると、ジェシーはふぅん…と分かったのか分からなかったのか察しずらい相槌をうちながら、俺の背中に抱きついてきた。

そう、別に何がなんでも心中がしたいって訳じゃない。今まで付き合った女の子に心中しようなんて持ちかけたことは無いし、どうしても心中を選びたくなるような辛くて報われない恋をしたことも無い。


ただ
「…まぁ、お前となら悪くないかな。」

ジェシーの広い胸のなかで、一緒に息絶えるところを想像したら、まるでそのために産まれてきたような気持ちになった。

「……そう。」
また、分かったのか分からなかったのか察しずらい相槌を、肩越しに聴く。

夏だから、俺もジェシーもちょっとだけ汗ばんでるのに、こんなにくっついてるのはちょっと滑稽。
触れている背中に、胸の鼓動を感じた。

心臓、動いてるね。ジェシー。
俺のも聞こえてるのかな。

もし、一緒に死んだら、俺さ。
これが、ようやくひとつになるような。
そんな気がしているんだ。
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