さんぶん

□永遠心中
1ページ/1ページ


「俺多分ね、知念が居なくなったら死んじゃう。」

突然。
あまりにも突然の台詞。

「…アタマ打った!?裕てぃー…」「いや、大丈夫俺は正常。」

必死に憎まれ口を叩くものの、今一つ調子が出ない。
…何を。急に言い出してくれるんだ全く。

「…ねえ、どーゆー意味?」
「だから、俺多分、知念が居なくなったら死んじゃう。」

ーいや、言ってること同じだし。

「あー…。
 まあせいぜい遺骨は拾ってあげるから安心して逝っていいよ。」

「うわぁ…!そんな現実的な話するシーンじゃないでしょ…?違うよなんか間違ってるよね知念!?
 って言うか『知念が居なくなったら』って話してるのになんで死んだ俺の遺骨知念が拾うんだよ!!」

とたんに軽くなる空気。
そうだ、これでいい。

どちらかが核心を突こうとすれば、器用に笑ってひらりとかわす。

そうだ、これでいい。
これでいいはずなのに。

そんな、
そんな重いこと言われたら。
どんな顔すればいいかがよくわからないんだよ裕翔。

…嬉しすぎて…。


「…知念は…?」

裕翔の声に、え?と僕は首をかしげて見せた。

真っ直ぐに僕を見つめて、裕翔がもう一度言う。

「知念は?俺が居なくなったら、どうする?」
「…。」

少しだけ、大分真剣に考えて。
だけどどうしても、一つしか答えが見つからなくて。
観念した僕は、小さな声でそれを口にした。

「やだ…。」

「はぁ!?」

「やだよ、裕てぃー。
 裕てぃーは僕のこと置いて居なくなったりしちゃダメなの!!絶対ダメなの!!」

何度考えても、頭の中に浮かんでこなかった。裕翔が僕のそばから居なくなる、なんて。

「僕より先に死ぬのも、絶対許さない。」


僕の答えは、答えになっていないといえばその通りだったけれど。

裕翔は結構気に入ったみたいで。

最近黒くしたばかりの僕の髪に指を通して、引き寄せるように僕を抱きしめた。

「じゃあ、一緒に死のうか…?知念。」
「それって心中?」
「そう。笑えるね、何言ってんだろ俺。」
「うん、笑える。
 今日の裕てぃーちょっと変。
 …でも心中は、悪くないかもしれない。」
「え、マジで?」
「なんかさ、
 太宰治みたいでかっこいいじゃん。」

裕翔の胸に顔を埋めると、あったかい匂いがして気持ちいい。

「けどね、僕らがフツーに死んじゃうまでもうちょっと時間あるみたいですよ。
 少なくとも五・六十年くらいは。」
「そうですね。ちょっと人生もったいないですね…。
  
 −…。
 うーん、じゃあこうしようか!
 死ぬまで一緒にいよう!そんで、そん時になったら一緒に死のう!!」

ーえ!?
この人今サラッとすごいこと言わなかったか?

「永遠に心中するみたいじゃない?」
「永遠に…心中…。」

転がすように、裕翔の台詞を繰り返しているうちにその気になってくる僕も多分、ちょっとおかしい。

ー永遠心中。
悪くないかもしれない。

「…じゃあ、手始めに。」

冗談か本気なのか、裕翔が僕にキスをしてから、耳もとで囁いた。







「死ぬ直前にも、知念にキスしたいな。」


 
「−馬鹿。」



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ