さんぶん

□発熱
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○○は風邪をひかない、とはよく言ったもので、幸か不幸か俺は今まで1度も風邪、というものにかかったことが無い。
学生だったころに感染症だとか、疲れから身体がだるい、って経験はあるけれど、鼻水咳くしゃみ発熱、みたいな風邪ってなったことない気がする。

「…ゆうてぃー、おみず…」

それに比べ、知念はよく風邪をひく。今もそう。

知念が寝ているベットにもたれかかって体育座りをしていた俺は、立ち上がって冷蔵庫へペットボトルを取りに走る。

『知念が割と具合しんどそうで。裕翔時間が大丈夫だったら行ってやってくれない?』

今日雑誌の撮影で一緒だったという木くんから電話が掛かってきたのは昨日の昼過ぎだった。
ちねんが、ちねんが、と、何かと呼びつけられるのは毎回俺で。俺は厄介事を押し付けられたような気持ちでスーパーとコンビニで必要なものを買い揃え、知念の部屋へ向かう。

―何が厄介って、微塵も厄介に思えないことだ

普通ならば同性のメンバーの風邪の看病なんて、喜んで引き受けるようなことではない。面倒だけれどまぁ可哀想だから、というノリだろう。俺だって、知念でなければそうだ。

コップに水を移して、零さないように気をつけて寝室へ向かいながらため息をついた。

正直、知念の体調不良をうまいこと利用して一緒にいるような気がして、心苦しい。だって俺は知念の彼氏でもなければ、こんな状況でもなきゃふたりっきりで長い時間一緒になんて居る機会もない。ご飯を二人で食べたのだって、せいぜい高校の頃くらいだ。
まぁ、メンバーのみんなも、俺の邪な気持ちを知っていて俺を知念の看病役にあてがっているのだろう。お節介にも程がある。有難いけど。

「知念、水持ってきたよ。大丈夫?あと冷えピタも交換しよ。」
「ん…ありがと」

へにゃぁって脱力したみたいな笑い方は、こんな時か、せいぜい寝起きくらいしか見れない。
風邪をひいている時の知念は、いつもより少し頼りなくて、かわいいんだけど、なんだか心臓に悪い。

俺が毎回理性こらえるのに必死なのにも、気づいてないんだろうなぁ…。

水を飲んだら落ち着いたのか、知念はそのまま寝てしまった。
5分くらい余裕で寝顔を眺めていたけれど、こうしちゃいられないと再び立ち上がる。
その瞬間、知念の手が俺の手を引いた。

「…あ、起こしちゃった?」
「…ゆ、と…」

起きてるのか微妙なとろんとした瞳で見つめられて、俺の中の何かが大爆発してしまいそうで慌てて冷却装置を稼働させる。

けど我慢もそこまでだった。
そのまま俺を引き寄せ抱きついて、
「ん、あったかい…」
ってくふって笑うもんだから。
ついに耐えかねてベットに膝をつき知念を抱きしめ返して、半分寝てる知念の首元に顔を埋めた。

ずっと隠していた本音がつい口から出るには、充分すぎる甘美な刺激で。

知念のからだ、やっぱりいつもより少し、あつい。


「ねぇ、好きだよ知念。」

「…、ぼくもすきぃー…」


寝ぼけてるのかもしれないし、熱にうかされてるのかも知れないけど、幸せすぎてどうにかなりそう。

本格的に眠りについた知念に、今なら許される気がして静かに頬にキスをした。
わーーーーやっちゃった。チューしちゃった。


眠り姫みたいに寝転ける知念は、確かにすごく綺麗だし可愛い。
うん、でも。

「かわいい。知念。
―でも、早く元気になってね。」

やっぱり、元気な知念が一番好きだからさ。
あと出来たら、さっきみたいなことは起きてる時に、ちゃんと、聞きたい。俺も頑張るからさ。


サラサラの黒髪を1度撫でて、ベッドから出て布団を整えてあげた。
そうだ、ヤマに電話してお粥の作り方を教えてもらおう。いい加減お粥くらい覚えろって怒られそうだけどまぁいい。背に腹は代えられないってやつだ。

起きたら少しは体調が良くなっていたらいい。
お粥、喜んでくれたらいい。

そしたら今度こそ勇気を出して、ちゃんと、元気なときに、2人で知念の好きな餃子でも食べに行かない?って、誘ってみよう。



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