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バシャンッ!!


水を手の中でため、思いっきり自分の顔にかける。
パンパンと頬を叩き、あのときのことを忘れようとする。
本当に…及川の顔を見ると








ものすっごい殴りたくなる。
中一のときから好かなかったけど、中三まで及川があんなのだと
私も耐え兼ねない。


実力は相当なものだとは分かっている。分かっているはずなんだが、
むかついてしまう。



及川が学校を休んだときは気分がよくなるほど、私は及川が大嫌いだ。


何度も言うが大嫌いだ。
殴ろうとしているのは愛故なんてことはない。断じてない。
あいつなんかを好きになるほうがおかしいんだ…





「あのくそやろう」




なぜ、あんなことをしたんだろうか。
考えても見るが、やっぱり分からない。
嫌いな相手に『愛してる』といって、キスをするなど
私なら絶対にやらない。死んでもやらない。


とうとう頭が逝ってしまったのか。






「ねぇ、みょうじさん?ちょっといいかしら」





「何ですか?」





タオルで顔を拭いてる最中、肩をポンポンと叩かれ
後ろを振り向くと、学校内でも有名な『及川ファンクラブ』とかいうやつの中でも熱狂的なファンの人だ。


スカートは下着が見えるくらい短く、シャツの第二ボタンまで開けている。

シュシュで髪が束ねられ、手首にはブレスレットをつけている。



言わずもがな校則違反の塊だ。




「貴方、及川君のこと好きなの?」




『好き』というワードでピキピキと血管が浮き出た気がした。


もう何回言われ続けたことだろうか。
喧嘩するほど仲が良い。
なんてよく言うよね。


私の場合はそんなんじゃない。



「だいっきらいですが」



腕を組み、私のことを冷たい眼で見下ろしてくる。
あれ、これ私危ないんですかね?

スカートのポケットからカッターが除いている。


それを工作のために使う物ではないことなど、私はすぐに分かった。



「嘘でしょう?昼休み、いっつも及川君のこと追いかけてるじゃない。












はっきり言って邪魔なの。











ただでさえ及川君の彼女を叩きのめすの大変だったのに」














及川の彼女……?








そういえば、私の友達って及川と付き合っていたっけ








「美優に何した」



私の大事な大事な友達の名を出す。
よく私と話してくれて、遊んでくれたりしてくれる。
私が及川のこと嫌いってことを知ってて、付き合うのも迷っていた。




そんな友達を











た た き の め し た ?










「あら、ただ脅したのよ。『及川君と別れないと貴方の大事な友達殺す』って」





目の前にいる女はポケットからカッターを取り出し、尖った歯を出す。

意味が分からない。
なんで他人が人の恋愛に首を突っ込むんだ。
友達のことを脅してまで何をしたいのか。
私にはまったく意味が分からない。



「別れたくない。なまえも殺させない。とか言うもんだから…私”達”で











制裁を加えたの」





木の陰から数人の女子が現れる。
手には同じくカッターが握られている。
何、この人たち怖い。


これがよく言うヤンデレっていうやつなのか?


今までこのような体験をするのは少なくはないが、
さすがにカッターまではいかなかった。
酷くても五人くらいで殴られる程度だ。






「別に、私が傷つこうと何とも思わないけどさ」





「なら、さっさとマネージャー止めなさいよ。目障りなの」















「うるさい。目障りなのは及川のほうだ」


ああ、もうこのさいだから本音をぶちまけよう。
美優にしか言ったことがない愚痴だけど、どうでもいい。



「私だってあんな及川と同じ部活とかいやだよ。中一のときに一君に誘われたから
マネージャーやってるだけで、バレー部にもう一人マネが増えたら
速攻でマネージャーなんか止めてやるわ。
止めてほしいんなら貴方たちがマネージャーやればいいじゃない。
でも、及川のことをずっと見ているだけだったらすぐ止めさせられるけどね。
そもそも、あんなやつのどこがいいわけ?
私を殺す勢いでサーブを頬に当ててくるし、合宿の料理に文句つけるし
笑顔で腹がたつこといってくる性悪だし、顔をみるたび殴りたくなるし
本当あんたたちの気持ちがまっっっっったく分からない。
悪いけど美優が及川と付き合ってることも不思議。
浮気性で女たらしの奴のどこがいいんだか。
私の気持ち何も知らないくせに勝手にうるさいんだよ。てか、人の恋愛に首突っ込むな」







長々と言い切ると、圧倒されたのか顔が引きつっている。
だが、次の瞬間カッターを持った女子がいっせいに私に飛び掛ってきた。
刃物もったままとか危ないだろ。じゃなくて。



「なに、それで私のこと切んの?いっとくけど、及川も私もお互いのこと大嫌いだからね」



一人が私の腕をつかみ、刃先を皮膚に当てる。
するとカッターを勢いよく左から右へと動かし



「嘘、嘘だ!!だって及川君が…
















みょうじさんのことが好きだって言ってたんだもん!!」

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