昊の彩
□プロローグ
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照明の落とされた暗い部屋に、パソコンのディスプレイだけが光源として光っている。
カタカタとキーボードを打つ少女は無感情な瞳でディスプレイの文字達を追っていたが、やがて唐突にその手が音と共にぴたりと止んだ。
「……綱吉」
少女の呼び掛けに、ベッドで横たわっていた少年が上体を起こし欠伸をひとつ。
「なに?」
「黄色のアルコバレーノが来る」
だるそうに髪をかきあげていた少年の動きが一瞬停止し、次いでベッドから立ち上がる。
「…とうとう、か」
少女の背後に立った少年は呟きながら腕を伸ばし、その華奢な体を抱きしめた。
自らを囲う腕に手を添え、僅かに細めた少女の視線はけれどディスプレイから逸らされることはない。
「どうするの」
「そうだな…」
すり、と少女の首筋に頬摺りした少年は少し思案し、愉快げにしかしどこか諦念を含めた瞳を閉じる。
「……せいぜい、ダメツナで誤魔化してやるよ」
それが何時までも通用するわけがない事くらい、互いに解っていて尚。
「…そう」
少年は意志を曲げず少女はそれを叶えようと力を貸す。
今暫し、二人の時間を止めたいのだと瞼を下ろして。
この身に触れる温もりがあれば充分なのに、と未来を憂う。
斯くして平穏は壊される。