雪傍 いち

□波紋の静謐
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朝早くから、五番隊副隊長の雛森桃は走っていた。
昨夜自隊の隊長である藍染惣右介の私室へ行き、そこで眠ってしまったため起床が遅くなったからである。

「近道しちゃえっ」

本来なら通行止めになっている場所を通り、桃は安堵に小さく笑みを零した。

「よかった!これなら間に合いそ…」

しかし廊下の角を曲がったそこで思考が停止し、代わりに悲鳴が響く。

「いやああああああ!!」

先に集まっていた副隊長らはその声に気付きすぐさま走り出した。声が桃のものであると気付いた三番隊副隊長の吉良イヅルが廊下を曲がり、何事かと尋ねた言葉は半ばで途切れる。

「…あ…ああ…あ…」

桃の唇から言葉にならない音が溢れ出た。
そこにいたのは、斬魄刀に貫かれ絶命している

「…あ……藍染隊長!!!」

藍染惣右介その人だった。
夥しい量の血が壁に散り、また流れ落ちるそれは随分と下の方にまで赤色を添えている。

「藍染隊長、藍染隊長っ。いやだ…いやです藍染隊長!」

涙を浮かべ藍染を呼ぶ桃に、当然返る声はない。
そのとき。

「何や、朝っぱらから騒々しいことやなァ」

桃のみならず集まった副隊長達の振り返ったそこには、いつもの笑みを貼り付けている三番隊隊長、市丸ギンが立っていた。
その姿を見て、桃のなかに蘇る声が、ひとつ。
──三番隊には気をつけろ、特に藍染が一人で出歩く時は、と。
幼馴染みであり十番隊隊長でもある日番谷冬獅郎の声が、ひとつ。
途端桃の霊圧が急激に上昇し、涙を浮かべたまま叫ぶ。

「お前か!!!」

斬魄刀に手をかけ、桃は市丸に向かって駆け出した。抜き放った刀は、しかし間に入った吉良に止められる。

「…!吉良くん!!どうして…」

「僕は三番隊副隊長だ!」

呟きにも似た桃のそれに、それでも吉良は答えた。

「どんな理由があろうと、隊長に剣を向けることは僕が赦さない!」

刀を交えたまま問答は続く。

「お願い…。どいてよ吉良くん…」

「それはできない」

「どいてよ…どいて…」

「だめだ」

桃が激昂した。

「どけって言うのがわからないの!!」

吉良も返す。

「だめだと言うのがわからないのか!!」

刀を握り締め一歩退いた桃が、叫ぶように始解した。

「弾け!!『飛梅』!!!」

桃の斬魄刀の形状が変わり、飛び退いた吉良のいたその場所にドン、と爆発が起こる。




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