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□恋の予感
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「ゴメン、教科書見せて…!」

小声で頼まれて頷く。隣の日向くんはいちいち可愛い。倣って小声で答える。

「良いよ。机、くっつける?」
「あ、うん。助かる。」

突然近くなった距離に心臓が五月蝿くなり、頬が熱くなる。恋愛偏差値の低さが如実に表れているというか何というか。了承したのに、とかっこわるい自分を叱咤する。落ち着けよ、頼むから。

日向くん、気付いてないと良いな。近いから、流石に気付いてしまうだろうか。

何気ない風を装って、ちらと横目で見てみる。

視線の先の横顔も、あたしと同じに少し赤くなっていた。気付けばその肩にも力が入っているようだ。そういえば、いつも寝ているこの授業で寝てない。

そんなことを考えていると、日向くんがこちらに顔を向けた。ばっちりと目が合う。やばい、見ていたのがばれた。焦りながら謝る。

「あ、ご、ごめん…」
「や、そ、そんな、おれこそゴメン。」

小声で謝り合って、また目が合って、噴き出すように苦笑した。日向くんが口を開く。

「何か、こーゆうの、」

ーー近くて緊張すんね。少し赤い顔で照れくさそうに言う日向くんにどきりと心臓が脈打つ。更に頬が熱くなる。どうにか、うん、と頷くと日向くんがまた笑った。

「へへ、おんなじ。」

近すぎて肩が触れてしまいそうで、呼吸どころか動揺もばれそうで、あちこちに変な力が入ってしまう。だけど、それがお互い様だと解れば何だか楽しい。

嬉しい。

「先生、こっち見てないよな…。」
「大丈夫みたい。」
「良かったー。」
「うん、当てられちゃうもんね。」

相槌を打つと、日向くんが困ったような顔をした。次の言葉を待つ。

「あ、えっと、そんだけじゃなくて。うまく言えねえけど…。」
「ん?」
「み、見られたくないっていうか…恥ずかしいとかもあるけど、えっと、」

ちら、とアーモンド形の目があたしに向けられる。茶色の瞳に見つめられて、また頬が熱くなる。慣れてないからだと心は開き直っているのに、表情までは操れないのがもどかしい。

「あっ…それ…。」
「え?」
「見せたくない、かもしんねー…。」
「え、それ…ってなに?」
「だ、だからつまり、」

言いかけて、日向くんが黙りこむ。何でもない、と視線を逸らされる。そのまま伏せってしまったのを残念に思いながら、最後にちらっと横目で見てみる。

明るい髪から覗く耳が、まだ赤かった。

なんとなく気恥ずかしくなって、見なかったことにしようと誓いながら視線を黒板に向け板書する。なんか今日、あたしおかしい。

次に話すとき、巧く話せるかな。何だかまた、緊張しちゃいそうだ。

確信にも近いそんな予感を、困った思いでもて余した。

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