short novels

□りんご飴
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夏休み。近所の神社で行われる、ナントカカントカの由来のお祭りに顔を出してみた。毎年それなりに賑わう、同級生を見かける可能性の高いお祭りだ。

誰かいないかな、ああでもあの人には会いたくないな、あの人がいたらいいな、なんて考えながらぶらぶらと歩いていると、見知った人を発見。

人混みから抜きん出る、紫の頭。こんばんは、と声をかけると、わざとらしく辺りを見渡した。全くもって失礼な男である。

とはいえ、

「うわー、紫原さん浴衣なんだ。」
「んー、気分。てか何で楓ちんフツーに私服なの。」
「だって暑いじゃん浴衣。」
「えー…。」
「いーじゃん別に。」
「つまんねーの。」
「そりゃごめんなさいね。」

制服かジャージの姿しか知らない身としては、浴衣姿を見られたのは嬉しい。

それにしても不毛な会話だ、としみじみ思う。まあそれが楽しいから良いんだけど。紫原さんといるのは、結構楽しい。

ちゃんとお洒落してきて良かった、と思う。あまりにも気を抜いたら、紫原さんに失望されてしまうかもしれないし。

「あれ、楓ちん一人で来たワケ?」
「あーうん。近所だから覗きに。」
「フーン…。じゃー一緒に回ろ?」

そう言って紫原さんが笑った。へらっと気の抜けた笑い方。実はあたしは紫原さんの笑顔が好きである。

「え、他に約束してないの?」
「断るから良いし。」
「や、だめだろ。あたしは遠慮するよ。」
「ダメ。」

むんず、と手首を掴まれる。あたしは男の人の手が好きだ。自分より大きい存在感とか、骨張った感じとか、力の差とかにどきどきする。

…まあ、どきどきしてる場合じゃないこともあるみたいだけど。

「い、痛いんですけど。」

あたしの手を掴むその力の強さときたら! 万力だった。まるでルロイさんみたいだ。万力のような、ってこんな感じ?

ここまでの力の差は期待してなかった! そして大きさの差ね! 身長が大分違うから当然っちゃ当然だけど!

「あーゴメーン。」
「…。」

お前反省してないだろ…。

「てか細いねー楓ちん。折れそうじゃん。」
「そんな簡単に折れませんー。」

そもそも細くないし、と付け足す。でも、聞こえていないようで。

「は? 折れるし。」

え、待ってどこでスイッチ入ったの。

「余裕だし。」
「や、落ち着こーぜ。」

これは本気で折れるかもしんない。だって紫原さんだもん。この身長だもん。きっとやれるさ。

「あ、そーいえば楓ちん、身長何p?」
「…嫌味か。」
「えー、別にー? オレちっちゃい人の気持ちとかわかんねーしー?」

うおおお何だこの人うざいぞ?

「…151。」
「…。」
「…。」
「…ゴメン。」
「なっ、謝んなばかあ! 惨めでしょうが!」

真剣な顔で謝られると傷つきます。

「ゴメンその…、そこまでちっちゃいとは…。」
「うるさーい。」

あーもー知らない、一人で回んなさいと拗ねるあたしに紫原さんが一言。

「何か奢るから。」

それはまさしく、鶴の一声だった。
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