short novels

□衝突からの
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「おはよう、楡野さん。」

爽やかな声と笑顔で繰り出される挨拶に、大抵の女子はやられてしまうんじゃないだろうか。…あたしもやられてしまいたいよ、いっそ…。

「…おはようございます、神さん。」

だけどあたしは神さんが、その目が笑ってないと知ってるから、強張ってしまう。声が喉の奥に貼り付いたみたいにうまく話せなくなる。今日も、堅い文面と小さな声でしか、返せなかった。

「楡野さん、堅いなあ。もしかして人見知り?」
「そんなところです。」

無難に、目立たぬようそう答えると、神さんはにっこりと笑った。

何となく、嫌な予感がした。

「ウソつき。」

形の良い唇が囁くように繊細に紡いで、あたしは戦慄する。この一瞬で寿命が縮んだんじゃないだろうか、五分くらい。

「な…、何で…。」
「オレ以外には笑顔なクセに。」

若干不貞腐れたような表情を意外に思いつつ、慣れですよと言い訳する。あまり神さんと話すことはないのでと付け足すと、疑わしそうな目が向けられた。

ーー見透かされそう。だから、それもあってあたしは、貴方が苦手なのだ。

「じ、神、…くん。」
「…えっ。」

だけど、それがばれたら面倒だから。貴方だけじゃなく貴方のファンまで的に回してしまうから。

さん付けからくん付けに、呼び方を変えて。

「傷付けてごめん…」

ね、と笑いかける。取り敢えず謝罪。瞬間、眼前の整った顔の白い頬に、僅かに赤みがさした。気がした。錯覚か。

「…いや、オレも変に絡んだから。」

え、何か素直なんですけど。意外に思いつつ、様子を見守る。どうやら上手く切り抜けられそうだと思う。

「慣れるまで話しかけるから。…良いよね?」

そうでもなさそうだと思う。何か、関わりに来てるんだけど、彼。

良くねーって言えない空気だよねコレ。いや別に良いけどさ。耐えられないとも思わないし。…こっちもちょっとは努力しようじゃないか。

「うん、是非。」
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