ONE PIECE
□Episode6
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森を掻き分け、銃弾が飛んできた方へ向かう。
『こっちから、銃弾飛んできたね』
「(!)」
「みて、ピストルが落ちてる!!」
落ちていた銃の銃口から煙が出ている。どうやら、先程の弾丸はこの銃で撃たれたものらしい。
だが、それよりも気になるものが置いてある。
箱の上に置かれた緑のカツラ。
「何だこれ」
『さぁ?』
「めちゃくちゃ怪しいわね………!」
「……」
3人で凝視していると、箱からいきなり足が生え、ソレは猛スピードで走り出した。
「あっ!!動いた!!」
が、小石に躓いて、転けた。
「『………』」
「くらっ!!!早く起こせェ!!!」
近付いて、覗き込めば、それは人間だった。足をじたばたと動かし、暴れている。
「に…人間だわ」
「起こせってんだ」
「こけたのにいばってる………」
「面白ェ、たわしか?」
『あぁ、なるほど、たわし人間』
「ゴムゴムの実か…”悪魔の実”だろう。噂に聞いた事はあったが、それを食った奴は初めて見たぜ」
たわし人間の名前は”ガイモン”。
撃たれた事を気にも止めていないルフィ達は、彼と直ぐに打ち解けた。
「おれも宝箱に詰まった人間、初めてみたよ」
『箱入り息子なの?』
「ああ…小さな頃から大切に育てられて…あほか、お前!!!ハマっちまったんだよ!!抜けねェんだ!!この島にたった1人、永遠20年この姿だ!!!わかるか、お前らにこの切なさが!!!」
「え!!?に…20年も、たった1人でこの島にいるの!?」
「ああ…20年だ……」
驚くナミだが、ルフィとマクルは違った。
「『バカみ(てェ/たい)』」
「ぶっころすぞ、てめェら!!!」
「………」
「20年てのァ………長いもんだ。髪の毛もヒゲも、この通り伸びっぱなしでボサボサ。まゆ毛までつながっちまった。現に、こうやってまともに人間と会話するのも20年ぶりだ」
黙って聞いていたルフィとマクルの2人は、突然ガイモンの体を箱から引き抜こうとする。
「痛い、痛い、何しやがる!!!」
「抜けねェなァ…!!」
『全然抜けないねー』
「やめろ、やめろ、首がぬける!!」
漸く手を離した2人にガイモンは怒鳴る。
「無茶すんじゃねェ!!長年の運動不足もあって、今じゃ、この宝箱はおれの体にミラクルフィットしてやがんだ!!抜けやしねェし、壊そうとすりゃおれの体がイカレちまう!!」
そんな彼にナミは訊ねる。
「でもさ…どうしてこの島へ来たの?」
「お前等さっき、海賊だと言ってたな」
「ああ、まだ4人だけどな」
「おれも昔、海賊だった」
『へぇー、そうなんだ!』
「あれはいい!宝探しの冒険には、命懸けても惜しくねェ、楽しいんだ。何か宝の地図でも持ってんのか?」
「”偉大なる航路(グランドライン)”の海図なら持ってる」
『あたし達は”ワンピース”を目指すんだ!』
「なにっ…!!ワンピースだと!!?まさか本気で”偉大なる航路(グランドライン)”へ入るつもりか!?」
3人は”偉大なる航路(グランドライン)”の海図を広げると、覗き込んだ。
「で?どれが”偉大なる航路(グランドライン)”だ?」
「さぁ…」
『たわしのおじさんは知らないの?』
「おれは海図はさっぱりわからん!」
「なんだそうか」
「「『はっはっはっはっ』」」
愉快に笑うルフィとマクルとガイモンを見たナミは、呆れて溜息を零す。
「こいつら…海賊達の会話じゃないわ…」
そう言うと、彼等から地図を取り、説明し始める。
「いーい?レッドラインは知ってるわよね」
「ああ。海を割る、大陸の名だろう」
『…?』
「そう!この世界に海は2つある!!そして、その世界の海を真っ二つに両断する巨大な大陸を”赤い土の大陸(レッドライン)”と呼ぶの!!その中心と言われる町から”赤い土の大陸(レッドライン)”に対して、直角に世界を1周する航路こそが”偉大なる航路(グランドライン)”!!史上にもそれを制したのは、海賊王ゴールド・ロジャーただ1人!最も危険な航路だと言われてるわ」
彼女の分かりやすい説明で、やっと理解した3人。
「要するにそのラインのどっかに必ず、”ワンピース”はあるんだよな」
『だったら、世界一周旅行だね!』
そんな容易な考えの2人にガイモンは一喝する。
「ばか言え!!そんな容易い場所じゃねェ!!少なくとも”海賊の墓場”って異名はホントらしいからな…以前”偉大なる航路(グランドライン)”から、逃げ帰ったって海賊達を見た事があるが、まるで死人みてェに戦意を失っちまって、そりゃ見るに忍びねェ顔(ツラ)してやがったよ」
ガイモンが思い出すのは、ボロボロの船からゾロゾロと降りてくる、魂の抜けた様な海賊達。
「何か相当恐ろしい事でもあったのか、恐ろしい海賊に遭ったのか、化物にでも出くわしたか…誰1人口を開こうとはしねェが…その姿は充分、”偉大なる航路(グランドライン)”の凄まじさを物語っていた」
「……!!」
顔を強ばらせたガイモンの話に、ナミはゴクリと息を飲んだ。
「その上”ワンピース”のありかに至っては、もうお手上げだ。噂が噂をよんで、何が真実だかわかりゃしねェ。大海賊時代が幕開けして20余年…すでにその宝は伝説になりつつあるのさ。わかるか?”ワンピース”なんてものは、夢のまた夢って事だ」
彼はルフィとマクルに「”ワンピース”は諦めろ」と遠回しに伝えるが、そんなものでは彼等に効果は無い。
「そうかなァ、なんとかなるだろ」
「ムリムリ!せいぜい稼ぐだけ稼いで逃げ出すってのが、1番利口なのよ!」
「見つかるだろ。おれ達、運もいいんだ!なっ、マクル!」
『うん!』
根拠なんてものは一欠片も無い自信に、彼等は笑った。
「…別にいいけど、どこからそんな自信が湧くわけ?」
「………」
楽しそうに話す3人を黙って見ていたガイモンは、今更ながら言う。
「おれが、なぜ、この島をずっと離れないかと言うとだな!!」
「おお、どうした、おっさん」
「未練だ。あきらめきれねェんだ」
『何を?』
「おれは20年前のあの時、海賊としてこの島へ上陸していた。この島に”財宝”が眠ると──」
彼はゆっくりと語り出した。
「ある地図に記されていたからだ」
ガイモンも乗る海賊船が、この島へ上陸した。
しかし上陸して3週間、200人総出で捜索したが見付かったのはからの宝箱1つ。諦めた船長は引き上げて、船に引き上げる様に命じた。
仲間は船に戻って行くが、ガイモンにはまだ気になる場所が1箇所あった。
それは船長がずっと待機していた大岩。
そこが怪しいと踏んだ彼は、決死の思いでへばりつく様にして大岩を登った。
──おれは自分の目を疑った…!!!──
頂上にあったのは5つの宝箱。仲間を呼ぼうとしたその時、手元の岩が崩れ、転落してしまった。
──その時だ。箱にハマったのは…!!──
箱にはまったまま気絶していて、目が覚めた時には既に船は海の彼方。
よく良く考えれば、あの宝は自分1人の物になる。が、箱にはまったこの体では大岩には登れない。
その時初めて気付いた。体が箱から抜けない事に。
ガイモンはもう見えない仲間達に向かって叫んだ。「帰って来てくれ」と。
ーー