鋼の錬金術師
□第10話
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「死なねぇから。俺もアルも絶対死なねぇから、お前も死なないでくれ
俺もお前が居なくなったらどうしたらいいかわかんねぇ」
エドの左手が彼の右袖を握るアンの手を握る。
「俺が護ってやる」そんな言葉は使えない。自分が彼女より弱いから。アンを護ってやれるような力がないから。
「俺、強くなるから。お前を護れるように強くかるから」
『嫌だよ…』
自分の為に誰かが傷付くのは見たくない。
2人の気持ちは違うようで同じ。強くなりたい、護りたい、護られたくない。
妙な雰囲気を和ますようにデンがアンの足元に擦り寄った。
それに気付いたエドは目尻を下げて言う。
「…………帰るか、皆が待ってる」
紅い夕日が2人のと1匹をオレンジ色に照らした。
─3日後。宣言通りエドの機械鎧が完成した。
「いいかい?いくよ?」
緩く結わえた髪の毛をサイドに流して椅子に座り、準備は万端。
後に襲う痛みに既に表情を歪めている。
「いち」
「にィの」
足にピナコ。腕にウィンリィ。
「さんっ!!」
「でっ!!」
タイミングを合わせて機械鎧を神経と繋げた瞬間、電気が流れた様な激痛がエドを襲った。
「〜〜〜〜っ毎度この神経をつなぐ瞬間が嫌でよ……」
痛みに、疲れた様な表情を見せる。
「泣き言言わないの。はい動かして」
「でも、この痛みとももうおさらばかもな。賢者の石が手には入れば元の身体に戻って万々歳だ」
「右手良好」
「残念だねぇ、せっかくの金ヅルが」
「そうよ無理して元に戻ること無いわよ。かっこいいじゃない機械鎧!」
ウィンリィはうっとりとした人が貼ったでスパナを両手で握りながら語る。
「オイルの臭い、きしむ人工筋肉、うなるベアリング……そして人体工学に基づいて設計されたごつくも美しいフォルム………………ああっなんて素晴らしいのかしら機械鎧」
「機械オタクめ」
「うるさい錬金術オタク」
などと言い合っている間にも接続が完了した。
「完成!」
壁に足を上げたり、腕を動かしたりと簡単にストレッチをする。
「どうだい?」
「うん。いい感じ」
ウィンリィは機械鎧の説明を始めた。
「あんたの事だからどうせ日頃の手入れサボると思ってね。今回使ってる鋼はクロームの比率を高くして錆びにくくしてみたの。そのかわり強度が下がったからあんまり無茶は………………って聞きなさいよあんたは!!!」
「アル、アンおまたせー」
エドは説明を聞かずに、アンとアルの待つ外に走っていく。
外ではシートの上に座るアルの回りに、アンが鎧の破片を並べていた。
「兄さんまだかな?」
『どうせ説明も聞かないだろうし、すぐ来るよ』
「だよね」
『うん。エドだもん』
笑いながら待っているとエドは走ってやって来た。
ウィンリィの怒鳴り声も聞こえ、やっぱりだね。と顔を見合わせて笑った。
エドは首を傾げていた。
「鎧の破片これで全部か?」
「うん。イーストシティの憲兵さん達が丁寧に拾ってくれた」
「すぐ直るのか?」
そこへアームストロングが見学に来た。
『うん。ちょっとコツがいるけどね』
「背中の内側に印があるだろ」
「うむ」
「これがアルと魂と鎧との仲立ちになってるんだ。この印を崩さないように手足を直さなきゃならない」
アームストロングは顎に手を当て、アルの背中の内側を覗きこんだ。
「血文字のようだな」
『血文字だよ』
「俺の血」
「血……」
軽く言う2人だが、アームストロングは血の気の引いた顔で呟いた。
その横では花畑が見えるような和やかな雰囲気で3人が話している。
「それにしても危なかったなーーーー」
「もう少し深くえぐられていたら終わってたねーー」
『ほんとだねーー』
エドとアンは両手を合わせてアルの印に手をかざした。
するとアルの体は元通り綺麗に直った。
『おっーし完璧!!』
「よしよし」
軽く鎧を叩いて強度を確認する。
そして髪の毛をいつもの三つ編みに結わえ直し、ピンと弾く。
「よーし、んじゃ早速……」
エドとアルが組手を始める。
「おっ、とっ……」
アルに投げられたエドが受身を取り、攻撃を躱す。
地面に両手を付き、垂直に蹴り上げた足は掴まれてしまう。
「げ」
そしてぺいっと投げられる。
「どわーーー」
アンは座って2人の組手を眺めていた。
その隣でアームストロングは疑問符を浮かべた。
「む?なんだ?兄弟喧嘩か?」
『ちがうよ。手足の作動確認兼ねて組み手やってるんよ
ここ暫く身体動かしてないからカンを取り戻さないといけないしね』
「アン・ケリーはせんのか?」
「アンは怪我が直りきってないから今回は駄目」
『みたいなんだよ』
「やりたかったなー」と愚痴を零すアンを見て何を考えたのか、上着を脱ぎ捨て筋肉を披露する。
「ほほう………ならば我輩も協力しよう!!」
「ギャー!!」
「来るなー!!」
「遠慮無用ッ!!」
嫌がって逃げる2人だが、エドは捕まってしまった。
しかしまだ諦めずに逃走を試みる。
「アン・ケリーの様に強い人物がおらんのだ!お前達もつまらんだろう!!」
「結構ですーーー!」
『あははははーーっ!』
──何やってんだか…………──
ベランダから様子を眺めていたウィンリィは呆れていた。
「ばっちゃんハラ減った!!」
日が暮れてやっと帰って来たと思えば、組手をしていた3人は泥塗れで汚れきっていた。
アンだけは綺麗なままの腕に書類を抱えていた。
取り敢えず汚れを落とし、皆で食卓を囲む。
「俺達の師匠が「精神を鍛えるにはまず肉体を鍛えよ」ってんでさ。こうやって日頃から鍛えておかないとならない訳よ」
『たくさん食べてたくさん寝てたくさん動くんだよ』
エドとアンの間でアルは頭を磨いている。
「それで暇さえあれば組手やってんの?そりゃ機械鎧もすぐ壊れるわよ」
「まぁこっちはもうかっていいけどねぇ」
ウィンリィは呆れ顔だが、ピナコは、かっかっかっと豪快に笑う。
「ふむ、しかし正論であるな
健全な精神は鍛え抜かれた美しき肉体に宿るというもの。見よ我輩の」
突如上着を脱ぐアームストロングを引いた目で見るウィンリィと頬を染めるピナコ。
「アルそこのソース取って」
エドはエビフライを口に咥えて完全スルーだ。
「はーい」
『その次あたしにかしてー』
勿論スルーしたのはアルとアンもである。
「明日の朝イチの汽車で中央に行くよ」
「そうかいまたここも静かになるねぇ」
「へへっ元の身体に戻ったらばっちゃんもウィンリィも用無しだな!」
「言ったね小僧!」
「だいたいあたし達整備師がいないと何もできないくせにこのちんくしゃは」
「ちんくしゃってなんだよ!!」
「うむ言いえて妙なり!」
『あっはははは!エドはちんくしゃだ!!』
「うるせーっ!!つーかちんくしゃって何だよ!!」
温かく和やかな食卓。
それは迎えてくれる誰かがいるから、待っていてくれる誰かがいるから。
それは一人ぼっちでは絶対に味わうことの出来ない時間。
ーー