鋼の錬金術師

□第12話
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「アン、どうする?」

ベッドの上で目を閉じているアン。

第五研究所に侵入したいところだが、アンはアームストロングに殴られて意識を失っている。

「置いていった方がいいかな?」

「わかんねぇ」

置いていけば、彼女は必ず追い掛けてくる。何が起こるか分からない第五研究所。1人で向かわせるのは危険だ。

「……もう少し待とう」












『……ったたた……』

目を開けたアンは、腹を擦りながら苦しそうに起き上がった。

「あっ、良かった!気が付いた!」

『……いたい……』

アンは未だに痛む腹を抑えて蹲ると、アルが優しく背中に手を置く。

「大丈夫?」

『……うん。へーき……』

「これから第五研究所に行くけど、お前休んどくか?」

『いや、行く』

顔を上げて不敵に笑って見せた。











「──なんつってな」

三日月の薄暗い街をこそこそと走るエド、アル、アンの3人。向かう先は第五研究所。

「俺達がこんな身体になっちまったのも、俺達自身のせいだ。だから俺達の責任で元の身体に戻る方法をみつけなきゃならねーよ」

【KEEP OUT】と表示された門は、鎖で厳重に封鎖され、1人の門番に警備されている。
人間の倍以上ある高い塀には有刺鉄線。

『ふーん……使ってない建物に門番ねぇ……』

第五研究所に到着した3人は物陰から門の様子を見ている。

「あやしいね」

「どうやって入る?」

『入口作る?』

「それをやると錬成反応の光で、門番にバレちゃうかも」

エドはゆっくりと塀を見上げた。

「…………となると…………」

アルは両手で足場を作り、そこにエドが足を乗せる。

「よい」

アルは腕を振り上げる。

「しょっ」

『なるほど〜!』

「おわ」

バランスを崩しながらも、無事に着地すると、有刺鉄線を解いて下にいるアルに伸ばす。

「悲しいけどよ。こういう時には生身の手足じゃなくて、良かったって思うぜ」

「ははは。同感」

そう言ってもう一度、両手で足場を作るアル。
しかし、アンは笑って彼から数歩程下がった。

「「?」」

刹那、地面を蹴り、アルを土台に飛び上がる。
塀の上に座るエドの頭を跳び箱のように使い、内側へと着地した。

そして上にいるエドに嫌味ったらしくベッと舌を出す。
頭を使われた彼は不機嫌そうな表情で言う。

「何すんだよ!」

『もっと縮めばいいのにって思ったから』

「さては、俺の方が身長高いから、ひがんでんのか?」

解いた有刺鉄線をロープ代わりに登るアルを見て、ひとまず塀から降りるエド。
彼が地面に足を付いた瞬間にポツリと呟く。

『ミジンコ』

丁度降りてきたアルに口を塞がれるも暴れるエド。
アンはそれを無視して入口を見る。

『あーあ。入口も閉鎖してある』

入口は板が打ってあり、閉鎖されている。

落ち着きを取り戻し、辺りを見渡していたエドが上を見上げる。

「お?」

少し高い位置に設けられた通気孔。
中に入れないかと思い、アルの肩を借りて、蓋を開けて中を覗く。

中を見てみると人間がギリギリ入れるか入れないかのスペースだった。

「奥まで続いてそうだな」

『じゃあ、アルここで待ってて』

「ええ?2人で大丈夫?」

「大丈夫も何も、おまえのでかい図体じゃ、ここ通れないだろ」

そう言い残すと2人は、「よいしょ」と通気孔に入り込む。

『じゃあ、ちょっと行ってくるよ』

──好きででかくなったんじゃないやい──

アルはその通気孔の下で膝を抱えて落ち込んでいた。










廃屋の暗い研究所の一角に、鎧を着た男の声が響く。

「…………おい、48!おい」

「む……なんだ66」

肩に剣を立て掛けた男─48は反応した。

「久しぶりの客が来たぜェ」

エドとアンとアルの侵入に気付いたらしい。

「そうか、今回のは楽しめそうか?」

「期待できねェなァ。ちっこいの2人と、鎧を着た酔狂なデカブツの3人だ」

「「酔狂」……お前が言うかね」

「げっへっへ!チビどもはおめェにくれてやるよ。俺はデカブツをミンチにしてらァ」

66と呼ばれた鎧を着た男は、嬉しそうに巨大な包丁を掲げた。











同じ頃。エドとアンは狭い通気孔の中を、ずりずりと匍匐前進で進んでいた。

「……しっかし……思ったより狭いな、ちくしょー」

エドは蜘蛛の巣を手で払いながら言う。

「こりゃ普通のサイズじゃ通れなかったな。身体が小さくてよかっ……」

『あっ、認めた!!』

只今自分で「小さい」と言って自己嫌悪中。

「ぐおおおおおおお」

アンはそんなエドを後ろから見て、腹を抱えて笑っている。

『あはははは!自分で言って、あははははは!』

エドは自己嫌悪を終え、アンが笑い終わるまで始終ムッとした表情でいた。

すると出口が見えて来た。

「よっこら……」

足で金網の蓋を蹴り落とし、

「しょ」

そこから通路へと着地する。

『とっ……』

同じくアンも、通路へと着地する。

立ち上がると通路に僅かだが灯りが灯っていた。

──足下が見える程度に照明がついてる……──

亀裂の入った壁や天井。床は陥没していたり、瓦礫が散乱している。
そして僅かに光り、等間隔に並ぶ照明。

『何が「現在使われておりません」よ』

「『ビンゴだぜ/だよ』」

舞う埃に口許を覆って、声を揃える2人の瞳は通路の先を見据えていた。











──兄さんとアン遅いな……迷子になってんのかな。もーーー──

アルは、2人の入っていった通気孔の下で腕を組んで立っていた。

その頭上では、建物の屋上の柵に片足をあげた鎧を着た男が、

「ヒュウ♪」

と口笛を吹く。

一瞬の判断で、素早く躱したアル。
彼がさっきまで立っていたところには、鎧を着た男が武器を振り下ろして立っている。

「なっ……誰だ!!」

「OKOK!でかい割にいい動きだァ。そうでなくっちゃやりがいが無ェ」

巨大な包丁が振り下ろされた地面は陥没している。

「誰だと訊かれたら、とりあえず答えとくかァ。ナンバー66!!もっとこりゃあ、仕事上の呼び名だがなァ」

ナンバー66と名乗る鎧の男は、巨大な包丁を肩に置いて、ゲラゲラと笑う。

「本名もちゃんとあるけど、聞いたらおめェチビっちまうからよォ。とどめをさす前に教えてやらァ!!」

「……それって僕を殺すってこと?」

「げっへっへ
なぁに、きれいに解体してやっからよォ。安心して泣き叫べ」

2つの武器を交差させ、低い声で言う。










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