鋼の錬金術師

□第18話
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「さすが、聖地(メッカ)と呼ばれる街ね!みんな研究熱心だわ!」

腕を組んで頷くウィンリィの横で、服を脱がされパンツ1枚となったエドが怒鳴る。

「だからって、なんでオレが公衆の面前でパンツ一丁にされなきゃなんねーだよ!!!」

そんな彼を冒頭でも登場した金持ちカップルが、指差して笑っている。

「はっはっは。見てごらん、ハニー」

「あらいやだ」

「あっはっは。大通りでパンツ一丁になった国家錬金術師なんて、そうそういないよ、兄さん!」

「ああそうですね、フンドシ一丁のアルフォンス君!」

「フンドシとちがうやーい」

兄に言い返されて落ち込むアルを慰めようとしたアンが更に追い討ちをかける。

『大丈夫!エプロンみたいでかわいいよ!』

「アン〜〜!?」

因みに彼女に悪気はない。

「ったく……ん?」

ズボンを履く途中にエドはある事に気が付いた。

「はっ、はっ、はっ!?」

慌てた様子で全身を探し回るが、何処にも見当たらない。

おかしな行動を取るエドに疑問符を浮かべたウィンリィは訊ねる。

「どうしたの?」

エドは顔を真っ青にしてズボンのポケットを見せた。

「無い…国家錬金術師の証…………銀時計が無い……!!」

「えーーーー!!?」

ラッシュバレーにアルの絶叫した声が響いた。

対してアンは驚きもせず、腹を抱えて笑っている。

『あははっ!パンツ1枚にされた時に盗られちゃったんだよ。ははっ。そんな人いないでしょ』

「うるせぇ!笑いすぎだ!!こっちは色々と被害者なんだぞ!!」

「アンは盗られてないの?銀時計」

スカートのポケットに手を入れたアンは、銀時計を取り出して見せる。

『ほら!大丈夫!エドとは違うもんねー』

「うっせ!!」

「ねぇアン」

『ん?』

「ペンダントは?」

ウィンリィに指摘され、首元を触ったアンの表情が凍り付く。

「まさか」

『…ない』












早速聞き込みを開始した4人。

まず初めに当たったのが、店で機械鎧をつくる技師の2人。

「やられたな、兄ちゃん、姉ちゃん」

「そりゃきっと、パニーニャだね」

「観光客をカモにしてるスリだよ」

「「『んなーーーー!!?』」」

3人は頭を抱えて、叫んだ。

『知ってたらその人がどこにいるか教えてよ!』

「たのむよ!大事な物なんだ!」

「そうさのう…教えてやってもいいが、そのかわり…兄ちゃんの機械鎧」

「じっくり見せて♡」

スパナを持って詰め寄りねだるが、機械鎧を刃物に錬成し突き付けるエドと拳銃を突き付けるアンに、両手を上げて降参する。

「西通りの裏路地!」

「グロッツってあやしい古物商!!」











「♪」

同じ頃、タンクトップに迷彩柄の長ズボンをはいた少女─パニーニャが、【Glatz】という看板がさげられた店に口笛を吹きながら入って行った。

「おやっさん、換金お願いね」

そう言って渡したのは国家錬金術師の証である銀時計と、錬成陣の刻まれたペンダント。

「おお、今日はまた立派な物を、盗って来よったな」

店主は2つの品を手に取り、鑑定する。

「ふーむ、見事な細工の銀時計だ。こっちは…宝石が埋め込まれてるな」

「でしょ?言い値で買ってちょうだいよ」

「銀時計は名前入りじゃな。「エドワード・エルリック」?どこかで聞いた事があるような…軍の紋章に…これは六芒星か?なんの紋章だったかのう……むっ、フタがあかんな」

「あれ?本当だ」

パニーニャは銀時計を耳に当ててみるが、全く音が聞こえない。

「それどころか動いてもいないじゃん。ガラクタつかまされたかな、ネジ巻いてみようか」

ネジを巻こうとしたその瞬間、勢いよく扉を開けたエドの声が響いた。

「動かすな!!」

アンは店主の手にあるペンダントを指差した。

『返して!!』

「………フタも開けるな!!野郎……じゃねぇこの女…」

「やばっ」

パニーニャは側に置いてあった高級そうな壺を、器用に足で持ち上げ、

「あっ」

「ほい、兄ちゃん、パス!!」

エドに向かって投げた。

「のわーーー!!それ80万円するツボーーっっ!!」

「うおお!?」

間一髪、エドが見事にキャッチ。

「ナイスキャッチ!」

その間にパニーニャは銀時計とペンダントを持って、窓から逃げ出した。

「ほいほい〜〜っと」

すかさずアンも窓から飛び出す。

「あっ…待て、コラァ!!追うぞ、アル!!」

静かになった店内で、店主は1人思い出す。

「あ、思い出した。最年少国家錬金術師の……」

しかし、もう遅い。












「待、ち、や、が、れえええええええ!!!」

建物から突き出たパイプの上を余裕そうに逃げるパニーニャを、猛突進で追いかけるアンとエド。

「しつこいなぁ、もう」

下に降りた所で、伸びた細めのパイプから蒸気が噴き出し、絶妙なタイミングでアンとエドにかかる。

「『ぶは!!』」

「うっひっひー。あたしの庭で追いかけっこしようなんて、10年早いっての」

後ろを振り返りからかって、正面を向くと、蒸気に紛れた大きな鎧のアルがパニーニャを捕まえようと手を伸ばす。

「!!うひゃあ!」

身を屈めて回避し、体勢を整えて、逃走するが、

「とっとっと…ありゃ、行き止まり!?」

目の前には壁。行き止まりだ。

「追いつめた!!」

「アルでかした!」

「でかしてない…よっ!」

「よっ!」

余裕の笑みで、地を蹴り、両サイドの建物の壁を利用して飛び上がり、壁を軽々と登る。

「うげ!軽業師かよ!?」

驚く間に、パニーニャは壁の向こうに降りてしまう。

その時、

『エド、アル、通るよ!』

振り返ればスピードを上げたアンが、突進してくるかのように走って来た。

「「うわっ!!」」

2人は慌てて端に避け、駆け抜ける彼女を目で追う。

『よっと!』

地を蹴り、パニーニャ同様、両サイドの建物の壁を利用して壁を越える。

「なっ!アンもかよ!」

「兄さん!」

アルが中腰で壁に背中を合わせると、エドがそれを駆け上がって壁を登り切る。

「そう簡単にオレ達から、逃げられると思って…」

しかし着地点にいたのはパニーニャではなく、機嫌の悪そうなブルドッグとそれに踏み付けられたアン。エドの言葉は続かなかった。

パニーニャはというと、棒の上に座ってにっかーと笑顔を浮かべていた。

泣きながら倒れたエドは、ブルドッグの餌食となった。

「のおおぉおおお」

「わう、ばう、がう、がう」

エドの叫びを聞いたアルは、壁に錬成した扉から入る。

「あ」

そこには、パニーニャもアンもおらず、エドだけがブルドッグに噛み付かれていた。

「がう、がう、がう、がう、がう」

「あうううううう」

「いい子なんだから、兄さんをはなしてあげて、ねっ」

「ガル?」

アルが、しっしっ、と手で払うが、ブルドッグは彼に向かって威嚇する。

「グルルゥ!!」

静かな声で怒りを露にして叱ると、

「ねっ」

「クゥーーーー」

ブルドッグはあまりの恐ろしさに、壁に寄って震えて怯えていた。

「兄さん、大丈夫?」

「ふ……ふふふふふふふふふふ」

エドは不敵に笑いながら、ゆらぁと立ち上がり、怒りを爆発させる。

「ぶっ…とばす!!」

「ええ!?ぶっとばすって…相手が男ならともかく、女の子だよ!?」

アルが反対の声を上げるが、エドは振り返り指差し宣言する。

「男女平等!!」

「(なんで兄さんが使うと、危険思想に聞こえるのかな)」












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