ONE PIECE
□Episode1
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──ここは小さな港村だ。港には1年ほど前から海賊船が停泊している。風は東。村はいたって平和である。──
停泊した海賊船の船首に1人の少年が立っていた。
「おい!ルフィ何する気だ」
「ふん!おれは遊び半分なんかじゃないっ!!もう、あったまきた!!証拠を見せてやるっ!!!」
村の少年─ルフィは片方の手を腰に当て、もう片方の手でナイフを握っている。
「だっはっは。おう!やってみろ、何するか知らねェがな!」
「また、ルフィが面白ェことやってるよ」
甲板に集まった船員達は笑いながらルフィの様子を眺めている。
そして次の瞬間、
「ふん!」
両手で握ったナイフで、自分の左目の下を刺した。
「!?」
「な…」
船員達は驚きに目を見開き、口をあんぐりと開けた。
「いっっってぇ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
想像を超えた痛みに、ルフィは涙を流しながら叫び続ける。
「バ…バカ野郎。なにやってんだァ!!?」
「いてーーよーーーーっ!!」
──この時に出来た傷は、彼のトレードマークの1つになるのであった。──
「野郎共、乾杯だ!!!」
「ルフィの根性と、おれ達の大いなる旅に!!」
赤髪の海賊団は村の酒場で、肉を食べたり、酒を飲んだり、肩を組んでワイワイと騒ぎ、宴会を楽しんでいる。
「がははは、飲め飲め」
「酒!酒、酒。足りねェよ」
「バカ、その肉は、オレんだ!!」
「うるせぇ!おれが食う」
「おい、よせ。酒の上のケンカは見苦しいぞ!!」
その宴会には当然のように2人の少年と少女が混ざっている。
少年はルフィ。先程、顔に怪我を負ったばかりで、
「あー。いたくなかった」
と涙目で言う。
「うそつけ!!バカなことすんじゃねェ!!」
そんな彼にツッコミを入れるように怒鳴ったのは、この海賊団の船長シャンクス。
『はは、泣いてるじゃん!』
隣で笑う少女はマクル。
「泣いてねー!!」
『うそだぁ!』
怪我したばかりの頬を思い切り引っ張ると、ルフィは涙を流して叫ぶ。
「いでぇぇえええ!!」
『ほらみろー!』
「まぁマクルそれくらいにしてやれ、結構深く刺してんだよ。このバカは」
シャンクスがルフィの頭にボンッと手を置くと、彼は両手の拳を突き上げた。
「おれはケガだって、ぜんぜん恐くないんだ!!連れてってくれよ、次の航海!!おれだって海賊に、なりたいんだよ!!!!」
ルフィの発言をシャンクスはいつものことのように笑い飛ばす。
「お前なんかが、海賊になれるか!!カナヅチは海賊にとって致命的だぜ!!」
「カナヅチでも船から落ちなきゃいいじゃないか!!それに戦ってもおれは強いんだ。ちゃんときたえてるから、おれのパンチは銃(ピストル)のように強いんだ!!!」
ルフィはそう言って、パンチの構えを取る。
「銃?へー、そう」
シャンクスは興味が全く無いようで、肘を付き手に頬を置いている。
その素っ気ない態度にルフィは思わず怒鳴り、マクルは笑う。
「なんだ、その言い方はァ!!!」
『はははっ』
その時、船員達が楽しそうに肩を組んでやって来た。
「おうおうルフィ!なんだかごきげんナナメだな」
「楽しくいこうぜ。何事も!」
「そう。海賊は、楽しいぜェ」
「海は広いし大きいし!!いろんな島を冒険するんだ」
「何より自由っ!!」
楽しそうに語る船員たちの話を聞いた2人の表情は自然と明るくなる。
「お前達、バカな事吹き込むなよ」
シャンクスはスプーンを咥えたまま、溜息混じりに言った。
「だって本当の事だもんなー」
「なー」
「お頭いいじゃねェか。一度くらい連れてってやっても」
「おれもそう思うぜ」
「おお」
その意見に何人かが同意し、ルフィは期待に目を輝かせるが、
「じゃあかわりに、誰か船を下りろ」
途端に船員達はルフィに背を向け、笑いながら宴の輪に戻って行く。
「さあ、話は終わりだ。飲もう!!」
「味方じゃ、ないのかよ!!」
ルフィのその後ろ姿に思わず怒鳴った。
「要するに、お前はガキすぎるんだ。せめて、あと10歳年取ったら考えてやるよ」
「このケチ、シャンクスめ!!言わせておけば!!おれはガキじゃないっ!!」
頭にきたルフィは、額に青筋を立てて怒る。
「まァ、おこるな、ジュースでも飲め。 マクルも」
「『うわ!ありがとう!』」
そう言ってジュースを奢ってもらった、2人は笑顔で飲み始めた。
「ほら、ガキだ。おもしれえ!!」
と、シャンクスは涙まで流しながら笑っている。
「きたねえぞ!!」
『おとなげない!!』
ルフィとマクルはコップを持ったまま、椅子から降りてシャンクスから離れる。
「ふぅっ!!もう疲れた。今日は顔に大ケガまでして頼んだのに!!」
「ルフィ。お頭の気持ちも、少しはくんでやれよ」
「副船長!シャンクスの気持ち?」
煙草に火を付けながら、声をかけてきたのは副船長のベン。
「そうさ…あれでも一応海賊の一統を率いるお頭だ。海賊になることの楽しさも知ってりゃ、その反対の苛酷さや危険だって、いちばん身にしみてわかってる」
「『?』」
ルフィもマクルも疑問符を浮かべた。
「わかるか?別にお前の海賊になりたいって心意気を、踏みにじりたい訳じゃねェのさ」
「わかんかいね!!シャンクスはおれをバカにして遊んでるだけなんだ」
その時、
「カナヅチ」
シャンクスは口許を手でおさえて、「ぷぷっ」と笑いながらルフィを見た。
『ははははっ!!』
「ほら!!!」
そこへこの酒場の店主であるマキノが酒樽を持って、微笑みながらやって来た。
「相変わらず楽しそうですね。船長さん」
「ああ、こいつをからかうのは、おれの楽しみなんだ」
そう言うシャンクスをルフィは不機嫌そうに指差す。
「確かに楽しんでるな」
「ルフィ、マクル。あなた達も何か食べてく?」
「ああ、じゃあ“宝払い“で食う」
『じゃあ、あたしはその“宝払い“で食べさせてもらう!』
2人はそう言って椅子に座る。
「でたな“宝払い“!お前は、そりゃサギだぜ」
「違う!!ちゃんと、おれは海賊になって、宝を見つけたら金を払いに来るんだ!!」
ルフィはそう言って、両手に持ったナイフとフォークで軽く机を叩いた。
「ふふふ!期待して待ってるわ」
「しししし」
マキノがクスッと笑うと、ルフィも白い歯を見せて笑った。
『あたしの分もよろしくー!』
「おう、任せとけ!」
ーー