鋼の錬金術師
□第2話
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「……ル!アル!アルフォンス!!アン!!くそ!こんな事があってたまるか!こんな…こんなはずじゃ……畜生ォ」
痛みを伴わない教訓には意義がない。
「持っていかれた……………!!」
人は何かの犠牲なしに何も得る事などできないのだから。
《この地上に生ける神の子らよ
祈り信じよさらば救わらん
太陽の神レトは汝らの足元をみれば照らす
見よ主はその御座から降ってこられ
汝らをそのもろもろの罪から救う
わたしは太陽神の代理人にして汝らが父》
「………ラジオで宗教放送?」
『興味なぁい』
机に頬杖をつきジュースをストローで飲む少女アン。その隣で食べ物を口へ運ぶ少年エド。2人共全く興味がなさそうだ。
「神の代理人…ってなんだこりゃ」
「いや、俺にとっちゃあんたらの方が「なんじゃこりゃ」なんだが…あんたら、大道芸人かなんかかい?」
ごぶばっ
口の中のジュースを勢い良く噴き出す。
『きたなぁい!!』
アンは反射的にアルの方に寄った。
確かに店主の目の前には大きな鎧とチビともう1つチビ……。大道芸人と思うのも無理はない。
「あのな、おっちゃん、オレ達のどこが大道芸人に見えるってんだよ!」
《太陽の神は汝らの行く先を》
「いや、どう見てもそうとしか…」
「ヨロイ!!」
「すげー」
「でけー」
3人は気にしていないが、彼等には幾つもの視線が集まっている。
「ここらじゃみない顔だな、旅行?」
『うん、探し物してて』
「ところでこの放送なに?」
先程から町中で聞こえる宗教放送。この店の屋根に設置されたラジオからも流れている。
《我らが父は天に》
「コーネロ様を知らんのかい?」
「…誰?」
『きっとパンだよ、なんかそんなのあったきがする…』
アンの発言はことごとく無視をされ話が続く。彼女がアホなことを言うのはよくあるの事なのだ。
「コーネロ教主様さ、太陽神レトの代理人!「奇跡の業」のレト教の教主様だ。数年前にこの街に現れて、俺達に神の道を説いてくださったすばらしい方さ!」
「そりゃもうすごいのなんの」
「ありゃ本当に奇跡!神の御業さね!」
話に加わった町の人達も口々にコーネロを褒め称える。だが、エドもアンもそれを右から左へと聞き流す。なんにしろ興味が無い。
「…って聴いてねぇな、ボウズ、嬢ちゃん」
「うん。宗教、興味ないし。」
『そーそー』
「ごちそーさん、んじゃ行くか」
『うん!おじちゃんごちそうさま』
「うん」
立ちあがった途端大きな背丈のアルの頭が天井にあたり、そこに置いてあったラジオを地面に落としてしまう。
「『あ』」
「あーーーーー!!!」
それはもう粉々に壊れ、修繕不可能な状態。
「ちょっとお!!困るなお客さん。だいたいそんなカッコで歩いてるから…」
「あーあ、ラジオおじゃん」
しかしラジオが壊れたのにも関わらず焦りを見せない3人。寧ろ余裕の表情を見せている。
「悪ィ悪ィ、すぐ直すから」
『まぁそう怒らずにね、おじちゃん』
「「直すから」って…」
「まあ、見てなって」
アルがラジオの破片を集めそれを中心にチョークで錬成陣をかく。
「──よし!そんじゃいきまーす」
「?」
店主達が疑問符を浮かべるなか錬成陣の上で両掌を交差させる。
ボ!!
「「「「うわあ!?」」」」
青白い錬成反応の光を見せると、
「な…」
「これでいいかな?」
エドが指差した先には、壊れたはずのラジオが元通りの形に戻っており、何語もなかったかのように放送が続いている。
《汝が神の言葉を受け入れ神についての知識を》
「……こりゃおどろいた。あんた「奇跡の業」がつかえるのかい!?」
『なにそれ』
「ボク達、錬金術師ですよ」
「エルリック兄弟とケリーって言やぁ、けっこう名が通ってるんだけどね」
エドとアルが自慢気についでにアンの事も紹介をすると、町の人達は記憶を辿り始めた。
「エルリック…ケリー…エルリック兄弟とケリーだと?」
「ああ、聞いたことあるぞ!」
「兄と少女がたしか国家錬金術師の……」
「「「「"鋼の錬金術師"エドワード・エルリックと"雪の錬金術師"アン・ケリー!!」」」」
「yes」
エドが鼻を高くして笑みを浮かべるが、町人の中心にいるのはアンと弟のアル。
「いやぁ、あんたが噂の天才錬金術師!!」
「なるほど!こんな鎧を着ているからふたつ名が"鋼"なのか!」
「こっちが"雪の錬金術師"か!」
『そーだよ!』
「すげえ」
「サインくれー」
「…」
「お嬢ちゃんの方はちっちゃいなぁ〜いくつなんだ?」
『…』
「あの鋼の錬金術師はボクじゃなくて」
「へ?」
「あっちのちっこいの?」
2人の禁句ワードを何の戸惑いもなしに言ってしまった町の人達。
「『誰が豆つぶドチビかーーーーーッ!!!』」
「「「そこまで言ってねぇーーー!!」」」
「知らないのでしょうがない」とはならずに怒り任せに机やら何やらをひっくり返すエドとアン。
「ボクは弟のアルフォンス・エルリックでーす」
「オレが!"鋼の錬金術師"エドワード・エルリック!!!」
『あたしは"雪の錬金術師"アン・ケリー!15歳なの!大人なの』
エドとアンの顔はまだおさまりきらない怒りを必死に抑えたような顔だった。
「し…」
「失礼しました…」
そんな騒がしい中に1人の女の人がやって来た。
「こんにちはおじさん。あら、今日はなんだか賑やかね」
「おっ、いらっしゃいロゼ。今日も教会に?」
「ええ、お供えものを。いつものお願い。あら見慣れない方が…」
ロゼという女の人の目がすぐ横にいたアン達を捉える。
「錬金術師さんだとよ、探し物してるそうだ」
「ども」
それを聞くとロゼがこちらを向いて満面の笑みでこう言った。
「さがし物見つかるといいですね。レト神の御加護がありますように!」
受け取った品物の紙袋を抱え、来た道を戻っていくロゼ。その後ろ姿を見送ったアンは飽きれたように呟いた。
『また宗教か…』
「ロゼもすっかり、明るくなったなぁ」
「ああ、これも教主様のおかげだ」
「へぇ?」
「あの子ね身寄りもない一人者の上に、去年恋人まで事故でなくしちまってさ…」
「あん時の落ち込み様といったら、かわいそうで見てられなかったよ」
「そこを救ったのが創造主たる太陽神レトの代理人、コーネロ教主様の教えだ!」
「生きる者には不滅の魂を、死せる者には復活を与えてくださる。その証拠が「奇跡の業」さ。お兄さん達も一回見に行くといいよ!ありゃまさに神の力だね!」
町の人達はコーネロを心から尊敬し心から敬っているが、エドは溜息混じりに低く言う。
「「死せる者に復活を」ねぇ……」
『うさん臭いね、そんなことあるわけないんだから』
《祈り信じよ。されば汝が願い成就せり》
直ったばかりのラジオからは未だにコーネロの教義が流れていた。
ーー